EA・投資ツールの使用許諾契約と利用規約

EAやツールは「売る」のではなく「使わせる」。その違いが、相場で負けたときの紛争の行方を左右します。

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サポートのLINEで「今は停止推奨」と一斉に送る。使い方の説明を超えたその一言は、投資判断の伝達と読まれかねません。

このページの要点

  • 所有権が移らず、口座数の制限・認証・再配布の禁止があるEAは、利用許諾契約として書く。
  • 不具合を「再現性のある技術的な欠陥」と定義し、相場負けと切り分ける。免責は直接・通常損害、支払総額上限、故意・重過失除外の上限型に。
  • サポートは技術的事項に限り、通貨ペア・タイミング・ロットの助言や市場分析の提供をしないと書く。
  • データ連携ツールは自動売買・シグナル配信・コピートレードの機能を持たないと定義し、データの利用目的を規約とPPの両方に書く。

結論:EAやツールは「売る」のではなく「使わせる」。投資判断に踏み込まない機能を定義する

結論

FXの自動売買ソフト(EA)や取引データの分析サービスなどの投資ツールは、売買契約ではなく利用許諾契約・利用規約として組み立てます。そのうえで、ツールが持つ機能と持たない機能(自動売買・シグナル配信・コピートレードなど)を定義し、サポートを技術的事項に限り、免責は全面免責ではなく責任の上限の形で書きます。

売買契約から利用許諾契約へ:EAのダウンロード販売

FXの自動売買ソフト(EA)をダウンロードで販売する依頼者の案件では、依頼者が起案した契約書を、事務所が総合レビュー・再レビュー・最終評価の3回にわたって確認しました。最初の論点は契約の型です。依頼者の原案は題名も中身も「売買契約」でしたが、事務所は「利用許諾契約」へ組み替えるよう勧めました。

理由は、EAの提供の実態にあります。購入者にソフトの所有権が移るわけではなく、使える口座の数が制限され、認証の仕組みで利用が制御され、再配布が禁止されています。これは典型的な利用許諾の形です。売買契約として書くと、引き渡した物が契約に合っていない場合の責任(契約不適合責任)や所有権の議論が混ざり込み、「相場で負けたのはソフトが契約に適合していなかったからだ」という主張の足がかりを与えかねません。

利用許諾契約に組み替えるときは、契約の中で使う言葉を先に定義します。レビューで定義を求めた語は、本EA、認証システム、対象口座、提供開始日、動作環境、サポート、不具合、投資判断の8つです。とくに「投資判断」を定義語として置くことで、サポートの範囲や免責の条で「投資判断に関する助言は行わない」と書いたときの意味が一つに定まります。

EAの利用許諾契約で定義した語と、その役割

定義語役割
本EA・認証システム許諾の対象と、利用を制御する仕組みを特定する
対象口座使える口座の数と、口座の変更の手続を決める基準になる
提供開始日提供の完了時点を決め、返金不可の判断の起点になる
動作環境動かない原因が利用者側の環境にあるときの切り分けの基準になる
サポート・不具合サポートの対象を技術的事項に限り、不具合を「相場負け」と分ける
投資判断通貨ペア・売買の時期・ロットなどの判断を、サポートと保証の対象外にする

提供が完了するのはいつか、も論点になりました。送信が完了した時点か、購入者がダウンロードできる状態になった時点か、です。再レビューでは、事業者が送信を完了した時点を提供の完了とすることを勧めています。提供の完了時点は、返金をしない旨の定めが働き始める起点でもあります。ダウンロード可能になった時点を基準にすると、購入者が実際にダウンロードしたかどうかを事業者が確かめられない場面が生じ、「まだ受け取っていないので返金してほしい」という主張に答えにくくなります。事業者の側で記録できる時点を基準にしておけば、提供の有無をめぐる争いで立証がしやすくなるからです。

定義語のうち「対象口座」と「動作環境」は、サポートの範囲と返金の判断に直結します。対象口座を定義しておけば、購入者が許諾された数を超える口座で使ったときに、それが契約違反であることを一義的に示せます。動作環境を定義しておけば、購入者のパソコンや取引業者の設定が原因で動かないときに、それがソフトの不具合ではなく環境の問題であることを切り分けられます。どちらも、購入者から「動かない」「損をした」という申出が来たときに、まず何を確かめるかの順番を決める定義です。

認証システムの定義は、再配布や口座数の超過があったときの対応に関わります。EAのファイルは複製が容易なため、購入者が知人に渡したり、許諾された数を超える口座で動かしたりすることが起こり得ます。認証システムによって利用を制御していることを契約に書き、許諾の範囲を超えた利用があれば認証を停止できることを定めておけば、契約違反への対応を、損害賠償の請求という重い手段に頼らずに行えます。停止の条件をあらかじめ示しておくことは、購入者にとっても、どういう使い方をすれば停止されるのかが分かるという意味があります。

「不具合」と「相場負け」を分ける

EAの紛争で最も多いのは、「損をした」という申出です。レビューでは、不具合を「再現性のある技術的な欠陥」と定義し、相場の動きによって損失が出たこと(いわゆる相場負け)は不具合に当たらない、と切り分けるよう求めました。ソフトが仕様どおりに動いた結果として損失が出たのであれば、それは投資の結果であり、ソフトの欠陥ではありません。この区別を契約書の定義の段階で置いておかないと、すべての損失が不具合の申出として持ち込まれます。

依頼者の原案の免責は、あらゆる損害について責任を負わないという全面免責の形でした。購入者が消費者なら、ソフトの欠陥による債務不履行でも、提供の際の不法行為でも、賠償を一切しないという定めは、消費者契約法8条1項1号・3号の下で効力を持ちません。そこで事務所が示したのは、責任に上限を設ける形です。賠償するのは直接かつ通常の損害までとし、額は購入者が支払った総額を限度とする一方、事業者に故意や重大な過失があれば上限を外します。故意・重過失のときの責任を一部でも削る定めは同じ条の1項2号・4号で効力を失うため、上限を外す一文は省けません。

事務所の改訂例|EAの販売契約(レビューで求めた書き方)

契約の型

改訂前EAの売買契約。(依頼者の原案)
改訂後EAの利用許諾契約とし、使用口座の制限・認証による制御・再配布の禁止を、許諾の内容として書くよう求めました。

理由所有権が移らない提供の実態に合わせ、契約不適合責任の議論が混ざるのを防ぐためです。

免責

改訂前本EAを使ったことで生じた損害は、その種類を問わず甲が負担しない。(依頼者の原案)
改訂後賠償を直接・通常の損害に絞り、受領した代金の総額を上限としつつ、故意・重大な過失があれば上限を外す形を示しました。

理由全面免責は消費者契約法8条で無効となり得るため、効力の残る形にするためです。

サポートの範囲

改訂前サポートは技術的事項に限る。(依頼者の原案)
改訂後これに加えて、特定の通貨ペア、売買タイミング、ロット設定その他個別具体的な投資判断に関する助言・推奨・指示を行わないこと、市場分析情報を提供しないことまで書くよう求めました。

理由「技術的事項」だけでは、稼働や停止の指示がどこまで許されるかが読めないためです。

返金不可の表示と「裁量返金」の書き方

ダウンロードで提供するEAは、一度提供すれば取り戻せないため、返金不可とする事業者が多くあります。レビューでは、返金不可を販売ページ、申込みの最終確認画面、契約の条文の三層で表示するよう勧めました。どこか一か所だけに書いてあると、「見ていなかった」と言われる余地が残ります。

依頼者からは「契約では返金不可と書くが、求められたら即返金するつもりだ」という話もありました。事務所は、契約で返金不可と書きながら実際には求めに応じて返金していると、「事実上の返金の慣行がある」として不利に働き得ると回答しています。そのうえで、「返金は原則として行わない。ただし、事業者の裁量により返金することがある。この返金は購入者の権利として認めるものではない」と明示する書き方を示しました。善意の返金を続けたいなら、その返金が権利ではないことを書いておく、という整理です。返金の考え方全体は返金・中途解約の精算で扱います。

条文例EA利用許諾契約(返金とサポートの範囲)

  1. 甲は、本EAの提供が完了した後は、利用料金の返金を行いません。ただし、甲は、その裁量により返金を行うことがあります。この返金は、乙の権利として認めるものではありません。
  2. 甲が行うサポートは、本EAの導入、設定及び動作に関する技術的事項に限ります。甲は、特定の通貨ペア、売買のタイミング、ロットの設定その他個別具体的な投資判断に関する助言、推奨又は指示を行わず、市場分析の情報を提供しません。

第1項の返金不可は、販売ページと申込みの最終確認画面にも同じ内容で表示します。第2項は、本EAの稼働・停止の時期についての指示もサポートに含まれないことを示す趣旨です。

データ連携ツール:自動売買もシグナルも「持たない」と定義する

取引の記録を仲間内で共有するWebサービスの利用規約では、取引データを送るために専用のEAを使います。この規約では、専用EAを「データの送信と連携を目的とするもので、自動売買、発注、決済、シグナル配信、コピートレードの機能を持たない」と定義しています。同じ「EA」という言葉でも、売買をしないツールであることを定義で示し、投資判断に関わるサービスではないことを最初に確定させる書き方です。

シグナル配信やコピートレードを「持たない」と書く理由は、添削・個別面談の範囲で見たEAのサポートの危険な例と同じです。売買の時期や方向を受け手に伝える機能は、受け手から見れば具体的な投資判断の伝達であり、報酬を得て提供すれば投資助言・代理業との関係が正面から問題になります。ツールの規約で機能を持たないと定義しておけば、運営者がその機能を後から付け加えようとしたときにも、規約の変更として立ち止まるきっかけになります。

この規約には、ほかにもデータサービスならではの定めがあります。取引履歴の真正性を保つため、利用者が個別の取引データを削除・修正する機能を提供しないこと。共有機能で共有された「手法情報」は共有した者に帰属し、それを投資助言に使ってはならないこと。そして、運営者が利用者の取引データを「当方自身のFX取引その他の投資判断の参考情報として利用する場合がある」ことへの承諾を、規約とプライバシーポリシーの双方に明記していることです。運営者が利用者のデータを自らの投資に使うことは、利用者が想定しにくい利用であり、承諾を得ずに行えば信頼を大きく損ないます。データの利用目的の書き方はマネー講座の個人情報で扱います。

共有機能の定めにも理由があります。共有の場では、利用者どうしが自分の取引の手法を見せ合います。その手法情報を誰のものとするかを決めておかないと、場を抜けた人の手法を残った人が使い続けてよいか、運営者が手法を集めて別のサービスに使ってよいか、という争いになります。共有した者に帰属すると定めたうえで、共有された手法を使って他人に投資助言をすることを禁じておけば、共有機能が無登録の助言の場として使われることへの手当てにもなります。データを共有する仕組みを持つツールは、ツールそのものが助言をしなくても、利用者どうしの間で助言が行われる場になり得るからです。

条文例取引データサービス 利用規約(専用EAの定義と、取引データの扱い)

  1. 専用EAは、利用者の取引データを本サービスに送信し、連携することを目的とするものであり、自動売買、発注、決済、シグナル配信及びコピートレードの機能を有しません。
  2. 当方は、取引履歴の真正性を確保するため、利用者が個別の取引データを削除又は修正する機能を提供しません。
  3. 利用者は、当方が取引データを統計的に処理し、市場の分析、本サービスの研究開発及び当方自身のFX取引その他の投資判断の参考情報として利用する場合があることを承諾します。

第3項の利用は、プライバシーポリシーの利用目的にも同じ内容で書き、規約とポリシーで食い違いが出ないようにしています。

不動産・オーナー権・暗号資産・投資の練習用アプリの規約

投資に関わるツールやサービスは、FXに限りません。事務所が作成・レビューしてきた規約から、サービスの種類ごとに置いた定めを挙げます。

サービスの種類ごとに置いた定め

サービス置いた定め
個人の不動産投資家向けのクラウドツール宅地建物取引の代理・媒介、投資助言、金融商品の勧誘、融資のあっせん、税務などを提供しないこと。利回り・収支予測・事業計画書・AIによる出力を保証しないこと
現物資産のオーナー権の取引・委託保管・再販売のWebサービスオーナー権が有価証券・集団投資スキーム持分・出資等に当たらない旨、元本・利回り・買取請求を保証しない旨、将来の見通しは断定的な判断ではない旨
暗号資産を得られるポイントアプリのアカウント運用代行報酬として得られる暗号資産の金額・価値の変動・換金の可能性を保証しないこと。第三者のアプリの規約違反やアカウント停止について責任を負わないこと
投資の練習用アプリ(実際の売買をしないもの)実際の金融取引ではなく、投資の助言・勧誘ではない旨を、プライバシーポリシーではなく利用規約に書くこと
役務のC2Cマーケットプレイス投資助言・融資・暗号資産の交換等、情報商材への勧誘を禁止出品に列挙すること

暗号資産を得られるポイントアプリの運用代行では、利用者が受け取る報酬そのものが価格の変動する暗号資産です。報酬の額を円で約束しているのか、暗号資産の数量で約束しているのか、受け取った後の価値の変動を誰が負うのかを決めておかないと、相場が下がったときに「約束の報酬が払われていない」という争いになります。また、運用代行は第三者のアプリの上で行うため、そのアプリの規約が代行を禁じていれば、アカウントの停止という形で利用者に不利益が及びます。規約で非保証と免責を書くのは、この二つの不確実さを事業者が引き受けないことを示すためです。

このうちオーナー権のサービスの条項は、オーナー権が有価証券等に当たらないと宣言する形です。投資助言との線引きで見たとおり、法律上の性質は宣言ではなく取引の構造で決まります。宣言の条項を置くことと、預託や販売の構造そのものを検討することは別の作業であり、条項だけで性質が決まるわけではありません。

投資の練習用アプリの案件は、プライバシーポリシーのレビューでした。アプリストアの審査では金融系のアプリとしての区分や申告を求められることがあり、実際の取引、口座の連携、資金の移動がないことを説明できる用意が要ります。その説明の根拠になるのは、アプリの性質を定める利用規約の条項です。

このレビューで、事務所は、実際の売買をしない練習用であることを示す定めをプライバシーポリシーではなく利用規約に置くよう求めました。プライバシーポリシーは個人情報の扱いを説明する文書であり、サービスの性質や利用者との約束を定める場所ではないからです。「実際の金融取引ではない」「投資の助言や勧誘ではない」という定めは、アプリの中で表示される価格や運用の結果が仮想のものであることを、利用者との約束として示すものです。ストアの審査で金融の機能について申告を求められたときにも、利用規約の該当する条を示して、実際の取引・口座の連携・資金の移動がないことを説明できます。

不動産投資家向けのクラウドツールで「提供しないもの」を長く列挙したのも、同じ考え方です。収支のシミュレーションや事業計画書の作成を支援するツールは、使い方によっては物件の紹介、融資の相談、税金の計算へと話が広がります。宅地建物取引の代理・媒介、融資のあっせん、税務などを名指しで外し、利回りや収支の予測、AIの出力を保証しないと書いておくことで、ツールが「計算の道具」であり、取引の判断を代わりに行うサービスではないことを示す狙いです。

ヒヤリングの問い|投資ツールの契約・規約を作る前に

  1. ツールは売買の発注をしますか。シグナルの配信やコピートレードの機能はありますか。

    機能の有無で、利用許諾として書けるか、投資判断の伝達として業法の検討が要るかが変わります。持たない機能は定義で「持たない」と書きます。

  2. 使える口座の数や端末の数に制限はありますか。認証の仕組みはありますか。

    対象口座と認証システムを定義し、制限を超えた利用や再配布を契約違反として扱えるようにします。

  3. 提供はダウンロードですか、Webでの利用ですか。提供の完了をどの時点で記録できますか。

    返金不可の起点となる提供の完了時点を、事業者が記録できる時点で定めるためです。

  4. 利用者のデータを、統計や研究、運営者自身の投資に使いますか。

    使うなら、規約とプライバシーポリシーの両方に利用目的を書き、承諾を得ます。

  5. サポートはどの窓口で、誰が行いますか。

    窓口と担当者が決まっていれば、サポートを技術的事項に限るルールを全員にそろえられます。

起きがちなこと

よくあるご質問

EAは「売る」契約と「貸す(使わせる)」契約のどちらにすべきですか?

所有権が移らず、使える口座の制限・認証による制御・再配布の禁止があるなら、利用許諾契約として書くのが実態に合います。売買契約にすると契約不適合責任や所有権の議論が混ざり、相場で負けたことを「商品の不適合」と主張される足がかりになりかねません。

シグナル配信はなぜ危ないのですか?

売買の時期や方向を受け手に伝えるシグナルは、受け手から見れば具体的な投資判断の伝達です。報酬を得て提供すれば、投資助言・代理業との関係が正面から問題になります。ツールの規約では、シグナル配信やコピートレードの機能を持たないと定義しておく例があります。

EAの免責は、どう書けば効力が残りますか?

一切責任を負わない形ではなく、賠償を直接かつ通常の損害に絞り、受け取った代金の総額を限度とし、故意や重大な過失があるときは限度を外す、という上限型にします。責任をすべて免れる定めや、故意・重過失の場面で責任を削る定めは、消費者契約法8条に照らして効力が認められない可能性があります。

口座数の制限や認証の停止は、どう書けばよいですか?

「対象口座」を定義語として置き、使える口座の数と変更の手続を決め、認証システムによる制御と、規約違反があったときに認証を停止できることを許諾の条件として書きます。再配布の禁止もあわせて定めます。

利用者の取引データを運営者が使ってもよいですか?

使う目的を規約とプライバシーポリシーの両方に明記し、承諾を得ておくことが前提です。事務所が扱った規約では、統計処理・市場の分析・研究開発に加え、運営者自身の投資判断の参考情報として使う場合があることまで書いて承諾を得ていました。

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