投資スクールの契約書と「投資助言・代理業」の線引き

「投資助言ではありません」と一文書いても、講座の中で銘柄や売買の時期に触れていれば、その一文は線を引きません。

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宣言の一文に「一切の責任を負わない」を添えた条項は、実態が違えば不実告知の材料になり、免責は消費者契約法8条で無効となり得ます。

このページの要点

  • 投資助言・代理業に当たるかは講座の実態で決まり、契約書の宣言は左右しない。無登録の営業は10年以下の拘禁刑等の対象(金商法197条1項4号の3)。
  • 「しない行為」を、個別の売買判断の助言、タイミングの示唆(リアルタイムを含む)、業者の推奨、口座開設の導線などと号で列挙する。
  • サポートの対象外(取引の可否、業者の比較、利益の見込み)を別の条で書き、受講者と事業者の双方に表明させる。
  • 申込書面・承諾しない事由・資金の注意の項でも、申込みの段階から同じ線を示す。

結論:「投資助言ではありません」の一文では、線は引けない

結論

投資スクールの契約書で「投資助言・代理業ではない」を示すには、宣言の一文ではなく、講座の中で「しない行為」を具体的に列挙し、サポートの対象外を分けて書き、受講者と事業者の双方に表明させる構成をとります。該当するかどうかは講座の実態で決まり、契約書の宣言はそれを左右しないからです。

金融商品取引法(以下「金商法」)は、相手方に有価証券の価値等や金融商品の価値等の分析に基づく「投資判断」について助言することを約束し、相手方がその報酬を支払うことを約束する契約を「投資顧問契約」と呼び、この契約に基づいて助言を行うことを金融商品取引業の一つとしています(金商法2条8項11号)。ここでいう投資判断は、投資の対象となる有価証券の種類・銘柄・数・価格、売買の別・方法・時期についての判断、又は行うべきデリバティブ取引の内容・時期についての判断と定義されています。これを業として行うことが「投資助言・代理業」であり(同法28条3項1号)、内閣総理大臣の登録を受けた者でなければ行えません(同法29条)。無登録で金融商品取引業を営んだ者には、10年以下の拘禁刑若しくは1,000万円以下の罰金が科され、両方が併せて科されることもあります(同法197条1項4号の3)。この罰則は2026年8月12日施行の改正で引き上げられたもので、それまでは5年以下の拘禁刑若しくは500万円以下の罰金又はその併科でした(改正前の同法197条の2第10号の4)。

FXの講座でも株式の講座でも、受講料という「報酬」を受け取って教える以上、講座の中で特定の銘柄や売買の時期についての判断を伝えれば、この定義に近づきます。ここで問題になるのは「推奨」という言葉ではなく「助言」という言葉です。家計・資産形成の講座の事前説明で事務所が依頼者に示したとおり、「年○%で運用できればこの金額に届く。この投資信託はこういう資産構成」という説明の組合せも、受講者の判断に向けた助言に当たり得ます。

FXやバイナリーオプションの講座なら株式とは違う、という受け止めも見られますが、定義の上では同じ枠の中にあります。金商法は通貨を「金融商品」に含め(金商法2条24項3号)、2条8項11号ロは金融商品の価値等の分析に基づく投資判断を対象にしています。そして投資判断の定義には、有価証券の銘柄や売買の時期の判断だけでなく、「行うべきデリバティブ取引の内容及び時期についての判断」も含まれています。通貨ペアのどちらを、いつ、どれだけ建てるかという判断は、この定義に当てはまり得るものとして扱うのが安全です。

書籍と同じ内容なら問題ないのでは、という疑問もあります。金商法2条8項11号は、新聞・雑誌・書籍など不特定多数の者に販売することを目的として発行され、不特定多数の者が随時に購入できるものを「文書」の助言から除いています。しかし、受講料を払った人だけが見られる講座の教材や動画は、誰でも随時に買える刊行物とは性質が違い、この除外には乗りにくいと考えられます。登録は個人でも受けられますが、営業保証金の供託などの負担があり、講座の事業者の多くは「登録を要しない一般的な情報提供の範囲にとどめる」ことを選びます。その範囲を書類の上で目に見える形にするのが、この条項の役目です。

宣言型の条項が、かえって不利になる理由

女性向けのマネー・資産形成講座の依頼者から、原契約書の「本講座は金融商品取引法上の登録を要する業務に該当するものではない」という条項で足りるか、というご質問がありました。事務所のレビューの結論は「足りない」です。理由は三つあります。

  1. 該当するかどうかは当局や裁判所が実態で判断するもので、当事者の宣言には効果がありません。
  2. 実態が該当したとき、断定形の宣言は「事実と異なることを告げた」材料になり得ます。消費者契約法4条1項1号は、重要事項について事実と異なることを告げられて誤認し、契約した消費者に取消しを認めています。
  3. 同じ条にあった、投資の結果について当社は一切責任を負わないという一文は、債務不履行の賠償責任も不法行為の賠償責任もまとめて免れる内容と読めます。消費者契約でこうした全部免除を定めても、その部分に効力を認めないのが消費者契約法8条1項1号・3号です。

一方、同じ条の2項の「個別の銘柄・時期・数量について助言を行わない」という書き方は、何をしないかを示す「行為規範型」で、1項より優れているとレビューで評価しました。ただし、金商法の中核にある「価値等の分析に基づく投資判断」という概念と、資産の配分比率・資産クラスの配分・投資手法の推奨が拾えていませんでした。

事務所の改訂例|マネー・資産形成講座の「投資助言ではない」条項

1項(宣言)

改訂前本講座は、金融商品取引法上の登録を要する業務に該当するものではない。(依頼者の原案)
改訂後レビューでは「削除が無難」と評価しました。登録の要否を当事者が宣言する文に頼らず、2項の行為の列挙を中心に据える考え方です。

理由宣言には効果がなく、実態が違えば不実告知の材料になるため、残す利点が乏しいからです。

2項(しない行為)

改訂前個別の銘柄、時期、数量について助言を行わない。(依頼者の原案)
改訂後価値等の分析に基づく投資判断に関する助言を行わず、個別の金融商品の売買、選択、時期、数量、配分の比率その他の投資判断に関する推奨又は指示を行わない、と改めました。

理由金商法の定義に沿った言葉で書き、配分比率の推奨など原案の抜けを埋めるためです。

4項(免責)

改訂前受講者が行った投資の結果に関し、当社はいかなる責任も負わない。(依頼者の原案)
改訂後冒頭に「その責めに帰すべき事由がある場合を除き」という限定を置きました。

理由債務不履行・不法行為の責任をすべて免れる形は消費者契約法8条1項1号・3号に触れるため、投資の損益は受講者に帰属するという本来の趣旨だけを残しました。

「しない行為」を列挙する:事務所の受講契約書の組み方

現にバイナリーオプションを中心に教え、将来FXを加える可能性のある個人向けの投資教育講座では、事務所が受講契約書を一から起案しました。前文で、この契約が準委任であることと、投資助言・代理業(金商法28条3項、2条8項11号)を目的・内容としないことを示したうえで、本文で「行わない行為」を号で列挙しています。前文の宣言は、それだけで線を引くものではなく、続く列挙の読み方を示す見出しの役割です。

条文例受講契約書 第4条(本講座で行わない行為)

  1. 当社は、本講座において、次の行為を行いません。
    (1) 個別の売買判断に関する助言又は指示
    (2) エントリー又は決済のタイミングの指示又は示唆(リアルタイムで行うものを含みます。)
    (3) 利益、勝率又は目標金額の提示又は保証
    (4) 特定の業者又は商品の指定、推奨、紹介又は誘導
    (5) 口座開設の代行、勧奨又はそのための導線の提供
    (6) 受講者に代わって行う取引の執行
    (7) その他、受講者の個別の投資判断への関与
  2. 当社は、国内で適法に提供されているサービスの制度について説明することがありますが、国内で登録を受けていない海外の業者への誘導は行いません。
  3. 本講座におけるチャート分析、インジケーター又は売買ルールへの言及は、一般的な知識として行うものであり、特定の取引を勧めるものではありません。

第2号の「示唆」と「リアルタイム」は、ライブ配信やチャットで相場を見ながら話す場面を想定して入れています。第5号は、口座開設の導線を講座の中に置くこと自体を外す趣旨です。

この列挙は、特定の商品の名前を使わずに書いています。この講座は現にバイナリーオプションを中心に教えていますが、将来FXを加える可能性がありました。「銘柄」「通貨ペア」といった商品ごとの言葉で号を書くと、商品を加えるたびに条文を直す必要が生じ、直し忘れた商品の場面が抜け落ちます。「個別の売買判断」「エントリー又は決済のタイミング」「特定の業者又は商品」という書き方なら、扱う商品が変わっても同じ号がそのまま当てはまります。

第2項の「制度の説明」と「誘導」の区別も、講座の現場を想定したものです。受講者から「国内ではどういう仕組みで取引できるのか」と聞かれて制度を説明することは、学習の一部です。一方で、特定の海外の業者を挙げて口座の開設を促すことは、第1項第4号・第5号の「業者の推奨」「口座開設の導線」に当たります。説明はするが誘導はしない、という線を一つの項で示しています。

同じ契約書では、別の条でサポートの対象外を列挙しました。第4条が講座全体の線引き、サポートの条がチャットや質問の窓口での線引きと、場面ごとに置き場所を分けています。質問の窓口では、受講者は講義よりも気軽に、自分の取引に引きつけた質問を送ってきます。そのとき講師が「それはサポートの対象外です」と答えられる根拠を、条文の形で持っておくためです。

条文例受講契約書 第10条(サポートの対象外)

  1. 次の事項に関する質問は、サポートの対象外とします。
    (1) 現時点で取引をしてよいか、取引を続けてよいかなど、受講者の個別の取引の可否
    (2) 業者、口座又はサービスの比較
    (3) 利益の見込み
    (4) 税務又は法務に関する個別の判断

第1号は、講座の中で最も多く寄せられる質問を名指しで外しています。添削や個別面談の範囲は添削・個別面談の範囲で詳しく扱います。

さらに、表明保証の条を双方向にしました。受講者側の表明だけでは、後で事業者が実態と違う説明をしていたときに一方的な文書になります。事業者側も自らの提供内容を表明し、守る対象として示すことで、条項全体が「何をしない講座なのか」の約束として読めるようにしています。

条文例受講契約書 第11条(表明及び保証)

  1. 受講者は、本講座が投資助言又は利益の保証を内容とするものではないことを理解し、本講座を投資助言又は利益の保証と誤認しておらず、当社からそのような保証を受けていないことを表明します。
  2. 当社は、本講座が金融商品取引法上の登録を要しない一般的な情報提供であり、第4条に定める行為を行わないことを表明し、保証します。

第2項の事業者側の表明は、第4条の「行わない行為」と結びつけて書いています。宣言だけを置くのではなく、守るべき行為の列挙を表明の対象にする点が、冒頭で見た宣言型の条項との違いです。

申込みの段階で切り分ける:申込書面・承諾しない事由・資金の注意

FX・株式・デイトレードの投資学習スクールで、事務所が申込書面と確認書を整えた案件では、契約書の外の書類にも線引きを入れました。申込書面の役務の欄に「性質(金商法)」という欄を設け、「学習機会の提供であり、個別銘柄の売買タイミング等の助言・指示は行わない。損益は受講者に帰属する」と記載しています。申込みの瞬間に受講者が見る紙に書いておくことで、後から「助言を受けられると思っていた」という主張に対する手当てになります。

同じスクールの入会契約書では、承諾しない事由の一つとして「投資助言、売買推奨、利益保証又は資金の運用代行を目的として申し込む者」を挙げ、受講者の取引内容の確認と添削の性質を定める条の中に「生活費、借入金又は返済予定の資金を投資に使ってはならない」という項を置きました。申込みの目的を入口で確認し、資金の出どころに注意を促すことは、勧誘時の説明と合わせて、講座が「学ぶ場」であることを示す事実になります。勧誘時の確認の項目は確認書・重要事項確認書で扱います。

家計管理・資産形成のマンツーマン講座のレビューでは、事務所は「『助言ではない』と書くのみでは足りない。完全マンツーマン、個別添削、オーダーメイドのタスク管理は、実質的に受講者の個別の判断に影響し得る」と指摘し、次の4点を条文に落とすよう求めました。

  1. 提供する情報を一般的な情報提供に限ること。
  2. 受講者の個別の状況への適合性を保証しないこと。
  3. 面談・添削も、投資助言に当たらない範囲で行うこと。
  4. 投資の判断と結果は受講者が自ら負うことを、受講者が承認すること。

その後の修正版では、「事例、制度の解説、投資手法、優待制度の紹介、及び『推奨』『おすすめ』その他これに類する表現は、一般的な説明として行うもの」という項を加えています。講座の中で「おすすめ」という言葉が使われる前提に立ち、その言葉の位置づけを契約で先に決めておく書き方です。

この項が役に立つのは、講座の中の言葉が後から切り出されたときです。講師が講義の中で「初心者にはこの制度がおすすめです」と話せば、その一言だけを見た人は、特定の商品を勧めたと受け取るかもしれません。契約書に、講座の中の「おすすめ」は一般的な説明として使う言葉だと書いてあれば、受講者はその前提で講座を受けたことになります。ただし、この項は言葉の意味を決めるものであり、受講者の資産状況を聞いたうえで特定の商品を勧めるような、中身として助言に当たる発言まで正当化するものではありません。言葉の位置づけの項と、行わない行為の列挙は、組み合わせて初めて働きます。

線引きの条項がない書類で起きること

事務所に持ち込まれる既存の書類には、線引きの条項そのものがないものもあります。ライフプラン・資産形成・副業のコンサルティングを役務に掲げながら、投資助言との切り分けの条項がない無形商品の販売契約書や、講座の内容を列挙するだけで、講座の中で何をしないかに触れていない受講契約書です。投資顧問会社が開くオプション取引のワークショップの受講契約書でも、助言との切り分けの条項はなく、免責の条に「投資成果も一切保証しません」とあるだけでした。

こうした書類では、講座の実態がどこまでなのかを書類から説明できません。講師がライブ配信で相場に触れたとき、チャットで銘柄名を挙げたとき、それが講座の範囲内なのか逸脱なのかを判断する基準が契約にないからです。受講者との紛争になれば、受講者は講座の中の発言や販売ページの表現を材料に、講座の実態を主張してきます。事業者の側に、講座の範囲を示す書類が契約書の免責の一文しかなければ、反論の材料が乏しくなります。

条項を加えるときは、講座の内容をヒヤリングで確かめてから、「しない行為」をその講座の場面に合わせて書きます。事務所の書類では、線引きを一か所に置くのではなく、書類の階層ごとに役割を分けて置いています。

線引きを置く場所(事務所の書類の組み方)

  1. 前文契約の性質(準委任)と、投資助言・代理業を目的・内容としないことを示し、以下の条の読み方を決める
  2. 行わない行為の条個別の売買判断の助言、タイミングの示唆、利益の提示、業者の推奨、口座開設の導線、取引の執行などを号で列挙する
  3. サポートの条取引の可否、業者の比較、利益の見込み、税務・法務の判断を、質問の窓口での対象外として列挙する
  4. 表明保証の条受講者は誤認していないこと、事業者は一般的な情報提供の範囲を守ることを、双方が表明する

このほか、申込書面の役務の欄、承諾しない事由、資金の注意の項で、申込みの段階から同じ線を示しています。

どの場面で何を話すかは発言ガイドラインで、保険・税務など金商法以外の線引きは家計相談と隣接する業法で扱います。

ヒヤリングの問い|投資助言との線引きの前に

  1. 講座の中で、ライブ配信やチャットで相場を見ながら話す場面はありますか。

    リアルタイムの場面は、エントリーや決済の「示唆」が最も生じやすく、しない行為の号に「リアルタイムを含む」と書くかどうかが変わります。

  2. 受講者の取引履歴や資産の状況を見て、個別に意見を言う場面はありますか。

    個別添削・面談の有無で、「一般的な情報提供」の範囲をどこまで具体的に書くかが変わります。

  3. 特定の業者・口座・商品を紹介したり、リンクを置いたりしますか。紹介に対価はありますか。

    業者の紹介と口座開設の導線は、しない行為として外すのか、制度説明の範囲で触れるのかを決める必要があります。

  4. 今後、扱う商品(FX・株式・オプション等)を増やす予定はありますか。

    商品の追加で講座の中身が変わるなら、行わない行為の列挙が新しい商品にも当てはまる書き方にしておきます。

  5. 講師は運営者本人だけですか。外部の講師やメンターはいますか。

    講師が複数なら、契約書の線引きを講師全員に守らせる仕組み(講師との契約・社内の規程)が別に要ります。

起きがちなこと

よくあるご質問

契約書に「投資助言ではありません」と書けば、登録は不要になりますか?

なりません。投資助言・代理業に当たるかは講座の実態で判断され、契約書の宣言はそれを左右しません。むしろ実態が違えば、事実と異なることを告げた材料になり得ます。講座の中で「しない行為」を具体的に列挙し、その範囲で運営することが必要です。

書籍と同じ内容を講座で教えるなら、問題はありませんか?

金商法2条8項11号は、不特定多数の者に販売することを目的として発行され、随時に購入できる新聞・雑誌・書籍などを除いています。受講料を払った人だけが見られる講座の教材や動画は、誰でも随時に買える刊行物とは性質が違い、この除外には乗りにくいと考えられます。

講座の中で「おすすめ」と言ってもよいですか?

使う場面と意味を先に決めておくことが大切です。事務所の受講契約書では、事例・制度の解説・投資手法の紹介や「推奨」「おすすめ」といった表現は一般的な説明として行う、という項を置いた例があります。ただし、特定の受講者の資産状況を前提に特定の商品を勧めれば、言葉の選び方にかかわらず助言に近づきます。

受講者に「投資助言と誤認していない」と表明させる意味はありますか?

受講者が講座の性質を理解して申し込んだことを示す資料になります。ただし、受講者側の表明だけでは一方的な文書になるため、事業者側も「登録を要しない一般的な情報提供である」ことを表明し、自ら守る約束として示す双方向の形にしています。

無登録で投資助言をすると、どのような罰則がありますか?

無登録で金融商品取引業を行った者は、10年以下の拘禁刑若しくは1,000万円以下の罰金に処され、両方が併せて科されることもあります(金商法197条1項4号の3)。法人の業務として行われた場合は、法人にも罰金刑が科されます(同法207条)。

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