返金・中途解約:支払方法と終了の理由で精算を分ける

「返金しない」と書けば返金しなくてよい、とはなりません。守れるのは、根拠を示せる精算の算式です。

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「プランを作れなければ全額返金」と「途中でやめても全額支払」。手厚く見える二つを並べると、どちらも働かなくなります。

このページの要点

  • 「原則返金なし」は消費者契約法の取消し・9条1項1号・10条で崩れ得る。10条で全体が無効なら民法648条3項に戻り、精算は裁判所の判断に委ねられる。
  • 支払方法(一括・自社分割・信販)で精算を分け、信販利用時は割賦販売法・信販規約を優先する。
  • 返金保証は事業者の責めに帰すべき事由に客観化し、任意の中途解約は別の制度として算式を定める。
  • 精算の算式は、講義の回数・提供日数・プランの提示など、講座の価値の中心に合わせて数えられる物差しで書く。

結論:「返金しない」を一律に書かず、支払方法・終了の理由・提供済みの部分で精算を分ける

結論

投資・副業スクールの「原則返金なし」は、書かれたとおりには働きません。勧誘の言葉による取消し、違約金の額が平均的な損害を上回る分の無効(消費者契約法9条1項1号)、任意規定より消費者に不利で信義則に反する条項を無効とする10条、という三つの道筋があるからです。事務所の書類では、支払方法(一括・自社分割・信販)ごとに精算を分け、返金保証と任意の中途解約を別の制度として書き、提供済みの部分を回数や日数で数えられる算式にしています。

女性向けのマネー・資産形成講座の依頼者から、「原則として返金しないという定めは、消費者契約法上問題ないか」というご質問がありました。事務所の回答は「書かれたとおりには機能しない」です。崩れる経路は三つあり、検討する順番も決まっています。最初は、勧誘の際の不実告知や断定的判断の提供による取消し(消費者契約法4条)です。取り消されれば、返金の定めの有効・無効を論じる前に、契約そのものがなくなります。二番目は9条1項1号です。解除時の損害賠償の予定や違約金のうち、似た契約を解除されたときに事業者がふつうこうむる損害、つまり平均的な損害を超える部分は無効になります。最後が10条です。

このうち10条の経路が、事業者にとって最も不利な結果を招きます。返金をしないという条項全体が10条で無効とされると、精算の基準が契約から消え、民法の原則に戻ります。準委任が途中で終わったときは、受任者はそれまでに済ませた履行の割合で報酬を求められる、という648条3項の定めです。どこまでが「既にした履行」なのかを契約で決めていなければ、その割合は裁判所の判断に委ねられます。事務所が勧めたのは、返金をしない方針を残したいなら、開講より前に、解除で事業者に生じる平均的な損害をどう見積もったのかを書面に残しておくことです。根拠を示せない「返金なし」は、争いになったときに守れません。

9条1項1号の「平均的な損害」は、その事業者の個別の受講者に生じた損害ではなく、同じ種類の契約が解除されたときに事業者に通常生ずる損害を意味します。講座が始まる前に解除されれば、講師の報酬や会場の費用はまだ生じていないことが多く、教材の準備も他の受講者のためのものとして使い続けられます。受講料のうち、どの部分が解除によって回収できなくなる費用なのかを、講座の構成に沿って説明できるようにしておくことが、根拠の文書化の中身です。返金をしない定めも、精算の算式も、この説明の上に乗って初めて争いの場で通用します。

返金・中途解約の条を作る順番(事務所の書類から)

  1. 支払方法を分ける一括・自社の分割・カード・信販ごとに、精算の前提を確かめる
  2. 価値の中心を特定する講座の価値がどの役務の、どの時点で提供されるかを確かめる
  3. 算式を決める回数・日数・プランの提示など、数えられる物差しで精算の算式を書く
  4. 制度を分ける返金保証・任意の中途解約・停止と延長を、別の制度として書く

最後に、販売ページ・確認書・契約書で、精算の説明が同じになっているかを照らし合わせます。

既存の書式の「全員月割返金」から、支払方法で分ける設計へ

FX・株式・デイトレードの投資学習スクールの入会契約書は、29条の骨格が既存の書式としてあり、事務所はそれを基に申込書面・確認書・コース別の各版を整えました。既存の書式の返金の条は、全員に月割の返金をする方式で、「入会金-入会金÷12×利用済みの月数」という算式でした。どの支払方法の受講者にも同じ算式が当てはまり、受講者が途中でやめれば、残りの月数分を返す形です。

ヒヤリングを経た改訂では、支払方法で精算を分けました。信販会社のショッピングクレジットを利用した受講者については月割の方式で精算する、という構成です。信販を使う場合には、割賦販売法と信販会社の規約が受講者と事業者の関係に影響するため、その場合はそちらが優先することを申込書面にも書いています。その後に加わった新しい商品では、信販の利用そのものをやめ、精算の扱いを一本にそろえました。

事務所の改訂例|投資学習スクールの入会契約書(変更対照表から)

返金の方式

改訂前全員に月割返金(入会金-入会金÷12×利用済みの月数)。(既存の書式)
改訂後支払方法で精算を分け、信販のショッピングクレジットを利用した場合は月割の方式で精算。割賦販売法・信販会社の規約を優先。

理由支払方法によって精算の前提が違うため、信販を使う場合の調整を別に書く必要があったためです。

競業避止

改訂前期限の定めのない競業避止義務。(既存の書式)
改訂後削除しました。

理由期間の限定のない競業の禁止は、受講者の職業の自由を過度に制限し、有効性が問われるためです。

秘密保持の違約金

改訂前違反があれば、損害の立証を要せず定額の違約金を支払う。(既存の書式)
改訂後現実に生じた損害の賠償に改めました。

理由立証を要しない定額は、違反の程度にかかわらず発動し、比例性を欠くためです。

解除時の請求

改訂前事業者が解除したときは、1年分の受講料を一括で請求できる。(既存の書式)
改訂後現実に生じた損害の賠償に改めました。

理由提供していない期間の受講料まで請求する形は、平均的な損害を超える部分が無効となり得るためです。

支払方法で分けても、一括払いや自社の分割の受講者について「返金しない」と定める部分は、消費者契約法の評価から自由になるわけではありません。冒頭で見たとおり、解除に伴う違約金としての性質を持てば9条1項1号の、条項全体として10条の評価を受けます。電話勧誘販売に当たる講座なら、申込書面や契約書面の記載にも基準があります。受講者からは解除できないと定めることも、事業者側の責めに帰すべき事由で解除されたときの事業者の義務を民法の定めより受講者に不利にすることも許されません(特定商取引法施行規則46条)。返金の定めは、終了の理由ごとに書き分けておく必要があります。このスクールで支払方法による区別を置いたのは、返金の有無を決めるためというより、信販を使う受講者の精算を、割賦販売法と信販の規約に合わせて別に書くためです。信販を使う場合の仕組みは分割払い・信販と割賦販売法で扱います。

変更対照表の後半の三つの項目は、いずれも既存の書式にあった「事業者に一方的に有利な定め」を、現実の損害に合わせて直したものです。投資スクールの受講契約では、教材やノウハウの流出を防ぐ目的で、重い違約金や競業の禁止が置かれていることがあります。しかし、重すぎる定めは無効となる部分が大きくなり、結果として何も守れない条項になります。違約金の比例性の考え方は教材の保護と違約金で扱います。

返金保証と中途解約を、一つの条に混ぜない

家計管理サポートとお金の教育動画を組み合わせたサービスでは、依頼者がAIで作成した原契約書に、二つの定めが並んでいました。「家計のプランを作れなければ全額を返金する」という返金保証と、「途中で終わっても代金は全額支払う。月割での精算はしない」という定めです。一見すると、受講者に手厚い返金保証と、事業者を守る精算の定めが両立しているように見えます。

事務所のレビューは、この組合せの問題を指摘しました。返金保証の条件(プランを作れないこと)は、事業者の側が「プランは作った」と言えばほとんど発動しません。そのうえで、途中で終了しても全額を支払うと定めれば、受講者がいつでも契約を終わらせることができるという民法の原則(委任はいつでも解除でき、既にした履行の割合で報酬を精算する。民法651条1項、648条3項)が、契約の上では事実上消えます。返金保証があることで、受講者には「やめても返金される」という印象が残り、実際にはどちらの制度も働かない、という構造です。消費者契約法9条1項1号・10条の問題に加えて、大学の学納金の返還をめぐる最高裁平成18年11月27日判決が示した「平均的な損害」の考え方にも照らして、レビューで検討しています。

事務所の改訂例|家計管理サポートの返金と中途解約

返金保証

改訂前家計のプランを作れなければ全額を返金する。(依頼者がAIで作成した原案)
改訂後返金保証の発動の条件を、事業者の責めに帰すべき事由(期限までにプランを提示しなかったこと)として客観的に定めました。

理由「作れなければ」では、作れたかどうかを事業者が判断することになり、保証がほとんど発動しないためです。

中途解約

改訂前途中で終わっても代金は全額支払う。月割での精算はしない。(同)
改訂後受講者の任意の中途解約を、返金保証とは別の制度として新設し、精算の算式を定めました。

理由返金保証と中途解約は、発動の理由も精算の考え方も違う制度であり、混ぜると両方が働かなくなるためです。

中途解約の精算の基準は、依頼者から「実際には2回目の面談でプランの提示がほぼ終わる」という実態を伺い、面談の回数の比ではなく「プランを提示したかどうか」に置きました。サービスの価値の中心がどこで提供されるかに、精算の算式を合わせたということです。

家計管理サポートの中途解約の精算(改訂版)

解約の時点精算
面談0回(開始前)全額を返金
面談1回の後受講料の30%を控除して返金
面談2回の後(プランを提示済み)受講料の85%を控除して返金
面談3回の後返金なし

控除の割合は、プランの提示という役務の中心が2回目の面談で提供される実態に合わせています。

ご質問と回答|家計管理サポートの依頼者から

返金の額は、解約のたびに受講者と話し合って決めたいのですが。

採用しませんでした。解約のたびに額を交渉で決める形は、受講者ごとに結果が変わり、精算の基準を事業者の裁量に委ねることになります。それこそが条項が無効とされる原因になります。固定の算式を下限として契約に残し、事情に応じてそれより多く返金することは事業者の自由、という形にしました。

解約の時点で変わる「返金なし」の効き方

マネー・資産形成講座(5か月)のレビューでは、「原則返金なし」の定めが、受講者が解約を申し出た時点によってどう評価されるかを表にしました。同じ条項でも、講座がどこまで進んでいるかで、平均的な損害を超える部分の大きさが変わるからです。

「原則返金なし」の時点別の評価(マネー・資産形成講座のレビューから)

解約の時点評価
開講前事業者に生ずる損害はまだ小さく、ほぼ全額の返還を求められる可能性が高い
開講から1か月受け取った受講料が平均的な損害を超えている蓋然性が高い
開講から4か月提供がかなり進んでおり、受講料を保持できる余地が大きい

表は、受講料を返さないという定めが、時点ごとにどの程度守れるかの見通しを示したものです。

そのうえで、契約書の改訂版では、精算の算式を講義の回数で定めました。「講義11回のうち実施済みの回数×受講料÷11」を事業者が受け取る額とし、残りを返金するという算式です。グループコンサル、個別コンサル、チャットのサポートは講義に付随するものとして、講義の回数の中に含めて数えます。役務の種類ごとに単価を付けると、どの役務を何回受けたかの記録が必要になり、精算のたびに争点が増えるため、講義の回数という一つの物差しに集めた形です。

このレビューでは、講座の途中で受講者が休む場合の扱いも加えました。受講者の病気などで受講を停止したときに、その期間の分だけ受講の期間を延ばす規定です。停止の制度がなければ、受講者は「受けられない期間の分を返してほしい」と中途解約を選ぶしかありません。停止と期間の延長の道を用意しておくことは、受講者のためであると同時に、解約による精算を減らすことにもなります。

講座の一部として企画したリトリートの取消料についても、依頼者から「参加を取り消した受講者に取消料を請求できるか」というご質問がありました。事務所の回答は、「無効ではないが、回収は難しい」です。理由は四つあります。取消料の金額と期限が受講者に開示されていないこと、宿泊施設の団体予約の取消料を参加者ごとにどう按分するかが決まっていないこと、事業者の側にも損害を小さくする努力(空いた枠に別の受講者を入れるなど)が求められること、そして事業者の都合で中止した場合の扱いがなく、受講者の側だけが負担する片務的な形になっていることです。取消料は講座の契約の解除に伴う違約金ではないため、9条1項1号の直撃は受けにくいものの、請求するなら、金額と期限をあらかじめ通知し、受講者が了承した回答を記録に残す必要があります。

伴走型の講座で、提供済みの部分をどう数えるか

セールス代行のスクールの依頼者からは、「動画の教材の部分は返金の対象外とし、伴走の部分だけを月割で精算したい」という希望がありました。事務所は、受講料の内訳と算式を条文にする形でこれに応え、動画の部分(総額の約35%)を控除したうえで、伴走の部分を月割と日割で精算する条を作りました。ただし、動画の部分を一律に控除できるかどうかは、その割合の算定の根拠、受講者への説明、動画が実際に利用できる状態にあったかどうかによって評価が変わるため、慎重に検討が要ると付記しています。内訳を書けば何でも控除できるわけではなく、その内訳に根拠があることが前提です。

インスタ・アフィリエイトの起業支援講座(6か月)の修正契約書では、原契約書の返金の定めを見直し、日割りの算式を置きました。「受講料×約定どおり提供した日数÷当初の提供期間の総日数」を事業者が受け取る額とする算式です。あわせて、教材へのアクセスを付与しただけで受講料の全額を消化したとは扱わないこと、事業者の都合で講座を終える場合は、未提供の分の精算と損害賠償を分けて考えることを定めています。教材へのアクセスだけで全額が消化されるとすれば、講座の初日に受講料のすべてが提供済みになり、残りの期間の伴走は対価のない役務という扱いになります。

事業者の都合で講座を終える場合を、受講者の都合による中途解約と分けて書いたのにも理由があります。講師の事情や事業の撤退で講座を続けられなくなったとき、受講者は、提供されなかった期間の受講料の返還を求めるだけでなく、別の講座を探す手間などの損害を主張することがあります。未提供の分の精算は算式で機械的に決め、損害賠償はそれとは別に、事業者の責めに帰すべき事由があるかどうかで判断する、と分けておけば、精算の額をめぐる争いと、責任の有無をめぐる争いが混ざりません。受講者の都合による解約の算式を、事業者の都合による終了にもそのまま当てはめると、受講者に不利な結果になることもあるため、場面ごとに書き分けます。

家計管理・資産形成の個別伴走と会員制のマネー講座の会員規約では、逆の方向の変更が問題になりました。事務所が当初作成した規約は、会員が利用できるコンテンツを中心とした構成で、利用できる状態になった時点で履行が始まることを前提に、返金をしない定めを支えていました。その後、依頼者が自ら規約を変更し、グループコンサル・6か月の伴走・コミュニティを前面に出したうえで「会員は解約を請求できない」と書きました。事務所は、この変更によって、受講者が「まだ提供されていない部分がある」と主張しやすくなり、解除権を制限する条項として10条で無効とされるおそれが高まったと指摘しています。サービスの見せ方を変えれば、返金の定めの支えも変わる、ということです。

ダウンロードで提供するEAのように、一度渡せば取り戻せない商品の返金の書き方はEA・投資ツールの使用許諾と規約で、保証制度を置いたときの精算は案件紹介制度・初案件保証で扱います。

ヒヤリングの問い|返金・中途解約の条を作る前に

  1. 受講料の支払方法は何ですか(一括、自社の分割、カード、信販)。

    支払方法ごとに、精算の前提と、割賦販売法の影響が違います。

  2. 講座の価値の中心は、どの役務の、どの時点で提供されますか。

    精算の算式を、回数・日数・成果物の提示など、価値の中心に合わせるためです。

  3. 教材や動画の部分の対価を切り出すなら、その割合の根拠はありますか。

    根拠のない一律の控除は、平均的な損害を超える部分として争われます。

  4. 返金保証を設けますか。その発動の条件は、誰が見ても判断できる事実ですか。

    返金保証と中途解約を別の制度として書き分けるためです。

  5. 受講者が休む場合の停止や期間の延長の制度はありますか。

    停止の道がなければ、解約による精算が増えます。

起きがちなこと

よくあるご質問

「原則返金なし」は、消費者契約法上有効ですか?

書かれたとおりには働かないと考えておく必要があります。崩れる道筋は三つあります。勧誘の言葉を理由にした取消し(消費者契約法4条)、違約金が平均的な損害を超える部分の無効(同法9条1項1号)、任意規定より消費者に不利で信義則に反する条項の無効(同法10条)です。維持したいなら、平均的な損害の算定の根拠を開講前に文書にしておきます。

信販を使った受講者だけ返金するのは、不公平ではありませんか?

信販を使う場合は、割賦販売法と信販会社の規約が受講者と事業者の関係に影響するため、精算をそちらに合わせて別に書く必要があります。支払方法ごとに精算の前提が違うことを、申込書面や確認書で受講者に説明しておくことが大切です。

返金保証と中途解約は、どう違うのですか?

返金保証は、事業者が約束した役務を提供できなかったときに返金する制度、中途解約は、受講者が自分の都合で途中でやめるときに精算する制度です。発動の理由も精算の考え方も違うため、一つの条に混ぜると両方が働かなくなります。事務所の改訂例では、返金保証は事業者の責めに帰すべき事由に客観化し、中途解約は別の制度として算式を定めています。

教材の部分は返金しなくてよいですか?

受講料の内訳と算式を条文にすれば、教材の部分を控除する精算は設計できます。ただし、その割合の算定の根拠、受講者への説明、教材が実際に利用できる状態にあったかによって評価が変わります。教材へのアクセスを付与しただけで全額を消化したと扱うのは避けます。

返金の額を、解約のたびに話し合って決めてもよいですか?

算式を契約に書かず、その都度の話し合いで額を決める形では、精算の物差しが事業者の判断次第になり、それ自体が無効とされる理由になります。固定の算式を下限として契約に残し、事情に応じてそれより多く返金するのは事業者の自由、という形を勧めています。

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