教材・受講生どうしのトラブル・講師との契約

投資の講座に集まるのは、お金を増やしたいという同じ関心を持つ人たちです。その信頼関係が、勧誘の入口にもなります。

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違約金を「一定額又は得た利益のいずれか高い額」とすると、軽い違反では重すぎ、無償公開という最も重い違反では足りなくなります。

このページの要点

  • 受講者間の金銭の貸借・出資・投資案件・暗号資産案件の勧誘を名指しで禁止し、受講者間の取引に事業者は関与しないと書く。
  • 投資手法を秘密情報として特定し、生成AIへの入力も名指しで禁止する。
  • 違約金は1件ごとの上限の範囲で程度に応じた額とし、損害の最低額として超過分の請求を留保する。
  • 講師との契約に発言ガイドラインの遵守と投資判断の助言の禁止を書く。修了後のコミュニティは別の規約で。

結論:投資スクールでは、教材の保護より先に「受講生どうしの投資勧誘」と「講師の発言」を止める

結論

投資・マネーのスクールでは、受講者どうしのコミュニティが、投資案件・暗号資産・情報商材の勧誘や、お金の貸し借りの場になりやすいという固有の危険があります。受講契約には、教材とノウハウの保護に加えて、受講者間の勧誘と金銭の貸し借りの禁止、受講者間の取引に事業者が関与しないことを書きます。違約金は違反の程度に比例する形にし、講師との契約には発言の規律を入れます。

投資の講座に集まるのは、お金を増やしたいという同じ関心を持つ人たちです。コミュニティの中で信頼関係ができると、受講者の一人が「自分が参加している投資案件がある」「この暗号資産は上がる」と他の受講者に声をかけることがあります。講座の運営者がそれに関与していなくても、受講者から見れば「講座で知り合った人に勧められた」ことになり、トラブルになれば講座の評判と責任の問題に及びます。事務所が扱ったマネー講座の原契約書には、この危険を正面から意識した条項がありました。

受講生どうしの投資勧誘・金銭の貸し借りを止める条項

女性向けのマネー・資産形成講座の原契約書には、受講者の禁止事項の一つとして「他の受講者への金銭の貸し借りの申入れ、出資の勧誘」があり(第14条8号)、別の条で「受講者間の取引に事業者は関与しない。金融機関・保険代理店・不動産業者・有資格者の紹介・あっせんを含む」と定めていました(第18条)。事務所のレビューは、この二つの条を「汎用の雛形にはない実務感覚」として高く評価しています。マネー講座で実際に起きることを想定して書かれた条項だからです。

第18条が、受講者どうしの直接の取引だけでなく、金融機関・保険代理店・不動産業者・有資格者の紹介やあっせんまで名指ししているのには意味があります。マネー講座の受講者の中には、保険の募集人や不動産の仲介の仕事をしている人、資格を持って家計の相談を仕事にしている人が含まれていることがあります。そうした受講者が他の受講者に自分の業務を勧めたり、知り合いの業者を紹介したりすることは、受講者どうしの自然なつながりの中で起こります。講座の運営者がそれに関与しないことを、紹介やあっせんの形まで含めて書いておけば、受講者が「講座で紹介された業者」と受け取ることへの手当てになります。保険や税務の業法の線は家計相談と隣接する業法で扱います。

そのうえで、契約書の改訂版では、禁止事項に「投資案件又は暗号資産案件に係る勧誘」を加えました(第14条4号)。出資の勧誘という言葉だけでは、受講者が「出資ではなく、良い案件を教えているだけ」と考える余地があるため、投資案件と暗号資産案件を名指しで禁止の対象にしたものです。

条文例受講契約書(受講者の禁止事項と、受講者間の取引)

  1. 受講者は、次の行為をしてはなりません。
    (1) 他の受講者に対する金銭の貸借の申入れ又は出資の勧誘
    (2) 他の受講者に対する投資案件又は暗号資産案件に係る勧誘
    (3) 他の受講者に対する金融商品、情報商材又は連鎖販売取引への勧誘
    (4) 登録を受けずに行う投資助言、資金の運用の受託又は利益の分配
  2. 当社は、受講者間の取引(金融機関、保険代理店、不動産業者その他の事業者又は有資格者の紹介又はあっせんを含みます。)に関与せず、これに関する責任を負いません。

第1項第1号・第2号はマネー・資産形成講座の契約書の、第3号・第4号は投資学習スクールの入会契約書の禁止事項を基にしています。

FX・株式・デイトレードの投資学習スクールの入会契約書にも、同じ方向の禁止事項があります。第9号で「他の受講者への金融商品・投資案件・情報商材・連鎖販売取引の勧誘」を、第12号で「無登録の投資助言、資金の運用の受託、利益の分配」を禁じています。後者は、受講者の一人が他の受講者から資金を預かって運用し、利益を分けるという、講座の外で無登録の業が行われる形を想定したものです。講座が投資助言をしないと書いていても、受講者どうしの間でそれが行われれば、講座のコミュニティがその場を提供したことになります。

受講者どうしの資金の預け合いは、最初は「教えてくれた先輩受講者に運用を任せたい」という善意の形で始まることが多く、トラブルが表に出るのは、損失が出た後や、預けたお金が返ってこなくなった後です。そのときには、運営者が知らないところで、講座のコミュニティを入口にした取引がいくつも重なっていることもあります。禁止事項に名指しで書き、入会のときの説明でも伝えておくことで、受講者自身が「これは講座で禁止されていることだ」と気づける状態を作ることが、最初の防御です。

禁止事項に書くだけでなく、違反があったときの扱いも決めておきます。違反者のコミュニティ利用を止め、悪質なら契約を解除できる定めがあれば、勧誘の投稿を見つけた運営者がすぐに対応できます。また、受講者間の取引に関与しないと書いておくことで、勧誘された受講者が損をしたときに「講座が紹介した」と主張されることへの手当てになります。ただし、この条を置いても、運営者が勧誘を知りながら放置していれば、コミュニティを管理する者としての対応が問われます。投稿を見つけたら削除し、本人に注意し、記録を残す、という運用と組み合わせて初めて意味を持ちます。

コミュニティで勧誘の投稿を見つけたときの対応

  1. 投稿の保存と削除投稿の内容と日時を保存したうえで、コミュニティから削除する
  2. 本人への注意禁止事項に当たることを伝え、勧誘をやめるよう求める
  3. 他の受講者への周知受講者間の取引に事業者が関与しないこと、勧誘に応じないよう注意することを伝える
  4. 再発時の措置繰り返す場合は、コミュニティの利用停止や契約の解除を検討する

対応の記録は、運営者が勧誘を放置していなかったことを示す材料になります。

投資手法・ノウハウの秘密保持と、AIへの入力

投資顧問会社が開くオプション取引のワークショップでは、受講契約書の別紙として秘密保持契約(NDA)を付け、「本講座内で共有される投資手法とノウハウ」を秘密情報と定めていました。投資の手法は、講座の価値そのものであり、受講者が外部に広めれば講座を受ける意味が薄れます。手法を秘密情報として特定しておくことは、受講者に何を外に出してはいけないのかを示すうえで意味があります。受講契約の本体とは別に、受講者が署名する秘密保持契約の形にしておけば、受講者は申込みの段階で、講座の中で知る手法が秘密として扱われることを、独立した書面で確かめることになります。講座の規約の一条として書くより、受講者の意識に残りやすい形です。ただし、このNDAの違約金は一律の額で、違反の程度にかかわらず同じ額を求める形でした。この点は、次に見る比例性の問題につながります。

事務所が起案した投資教育講座の受講契約書では、教材について禁じる行為の中に、生成AIへの入力を加えています。教材の文章や動画の中身を受講者がAIのサービスに入れると、サービスの規約次第では入力した内容が学習に使われ、講座の外に出ていくおそれがあるためです。教材の複製や転載の禁止だけでは、AIへの入力が禁止に含まれるかどうかがはっきりしないため、名指しで書いています。

AIへの入力の禁止には、もう一つの意味があります。受講者が教材をAIに読み込ませて要約を作り、それを他人に配れば、教材そのものを複製していなくても、教材の内容が講座の外に出ていきます。複製・転載・配布の禁止は、教材の表現をそのまま使う行為を対象にした言葉であり、AIによる要約や言い換えを通じた流出を想定していません。入力の段階で禁止しておけば、その後の要約や配布がどういう形をとっても、入力した時点で違反として扱えます。

手法の保護には限界もあります。投資の考え方や一般的な分析の方法は、受講者が講座で学び、自分の取引に生かすことこそが講座の目的であり、それ自体を使わせないことはできません。守れるのは、教材という表現物と、講座の中で秘密として示した具体的な手法の内容です。受講者が学んだことを自分の取引に使う自由と、教材や手法をそのまま外部に提供することの禁止を、条文の上で分けて書きます。

違約金:「一定額又は得た利益のいずれか高い額」の問題

マネー・資産形成講座の原契約書は、教材の無断の利用などの違反に対して、違約金を「一定額又は違反によって得た利益のいずれか高い額」としていました。この定め方は受講者と事業者の双方に不利益をもたらす、というのがレビューでの指摘です。

一つ目は、受講者にとっての不利益です。一定額が下限として働くため、家族に教材を見せた程度の軽い違反でも、同じ額の違約金が発動します。違反の重さと額が見合っておらず、消費者契約法10条や民法90条に照らして効力が問われます。二つ目は、事業者の側の不利益です。受講者が教材をインターネットで無償で公開した場合、受講者が「得た利益」は0円です。この場合の違約金は一定額だけになります。しかも民法420条3項は違約金を賠償額の予定と推定するので、実害が一定額をはるかに上回っても、差額を取れない可能性があります。最も重い違反のときに、最も足りない額しか請求できない、という逆転が起きます。

事務所の改訂例|違約金の定め

マネー・資産形成講座の違約金

改訂前違反した受講者は、一定額と違反により得た利益のうち高い方を違約金とする。(依頼者の原案)
改訂後超過損害の賠償も請求できる旨の留保を加え、実害が違約金より大きい場合に備えました。

理由違約金が賠償額の予定と推定されると、無償公開のような重い違反で実際の損害を請求できなくなるためです。

投資教育講座の違約金

改訂前―(事務所が起案)
改訂後違反1件ごとに上限額を定め、その範囲内で、違反の態様と拡散の範囲に応じて合理的に定める額とし、これを損害の最低額として、超える損害の賠償も請求できる形にしました。

理由軽い違反に重い額が発動することを避けつつ、重い違反では実際の損害まで請求できるようにするためです。

投資教育講座の受講契約書の書き方は、違約金を「上限のある、程度に応じた額」とし、それを民法420条の損害の最低額と位置づけ、超える分は別に請求できるようにしたものです。違約金の額を一律にしない理由は、違反の重さが事案ごとに大きく違うからです。家族に見せた、SNSで一部を引用した、教材を丸ごと販売した、では、事業者の損害はまったく違います。上限を定めることで受講者にとって予測できる額にし、程度に応じることで比例性を保ち、超過分の請求を留保することで重い違反への備えを残しています。投資学習スクールの既存の書式にあった「損害の立証を要しない定額の違約金」を、現実の損害の賠償に改めたのも、同じ考え方です(返金・中途解約の精算)。

条文例受講契約書(教材の無断利用の違約金)

  1. 受講者が前条に違反したときは、受講者は、当社に対し、違反1件につき○円を上限として、違反の態様、拡散の範囲その他の事情に応じて合理的に定める額の違約金を支払います。
  2. 前項の違約金は、受講者が賠償すべき損害の最低額とします。当社に生じた損害がこれを上回るときは、当社は、上回る部分の賠償も請求できます。

上限額は、講座の受講料や教材の性質に応じて決めます。第2項で「損害の最低額」と位置づけることで、違約金が賠償額の予定と推定されて(民法420条3項)超過分を請求できなくなることを避けています。

FXスクールの講師との業務委託契約

FXスクールの運営者が講師に講座を委託する業務委託契約では、報酬をスクールの粗利益(広告費・決済の手数料などを控除した後の額)の30%とし、講師が作った教材の著作権は作成と同時に運営者に移転すること、売上や受講者への対応の履歴をプロモーションの会社と共有することへの同意、契約の終了後1年間の競業と再委託の禁止、受講者からの苦情で返金などが生じたときの講師による補填を定めていました。

報酬を粗利益の一定割合とする定めは、講師にとっても受講者を集める動機になります。講師が受講者を増やそうとして、講座の外のSNSや個別の相談で強い言葉を使えば、その言葉は運営者のスクールの勧誘として受け取られます。成果に連動する報酬の講師ほど、勧誘と講義の両方の場面で、発言の基準を守ってもらう必要があります。

こうした条項は、講師との契約として一般的に見られるものですが、投資スクールの講師契約として見ると、欠けているものがあります。講師の発言を投資助言から切り分ける条項です。講座の中で投資判断に踏み込む発言をするのは講師であり、講師の一言が講座の実態を決めます。講師との契約に、発言ガイドラインの遵守と、価値等の分析に基づく投資判断の助言や個別の売買の推奨をしないことを義務として書いておかなければ、運営者が受講者との契約で約束した「投資助言をしない講座」を、講師の側で守らせる根拠がありません。

苦情による返金の補填の条項も、発言の規律と結びつけて考える必要があります。受講者の苦情の原因が講師の発言(たとえば「この通貨ペアで必ず取れる」という断定)にあった場合、講師に補填を求める根拠は、講師が守るべきだった発言の基準が契約に書かれていることです。基準が書かれていなければ、どの発言が契約違反なのかを示せません。補填を求めるには、受講者の苦情の原因が講師の契約違反にあることを示す必要があり、その出発点が発言の基準です。講義の録画が残っていれば、基準に照らしてどの発言が問題だったかを特定できます。また、売上や受講者への対応の履歴をプロモーションの会社と共有する定めは、講師との間の同意だけで足りるものではなく、受講者の個人情報を第三者に提供する場面として、受講者側の同意やプライバシーポリシーとの整合も確かめる必要があります(マネー講座の個人情報)。

契約の終了後1年間の競業の禁止も、投資スクールでは具体的な場面を想定しておきます。講師が退任した後に、自分の名前で同じ種類のFXの講座を開くことは、講師にとっては自然な活動です。運営者が守りたいのが、講師が作って運営者に権利が移った教材なのか、運営者のスクールの受講者なのか、講師が講座で教えていた手法そのものなのかによって、禁止の対象と期間の書き方は変わります。講師が講座に来る前から持っていた手法まで使わせない定めは、講師の職業の自由を過度に制限し、有効性が問われやすくなります。

修了後のコミュニティでの銘柄の話と、禁止事項の空白

マネー・資産形成講座の発言ガイドラインでは、修了後のコミュニティについては、二点を明記しています。一点目は、コミュニティが無償であっても、業法上の評価が軽くなるとは限らないことです。運営者や講師が修了後のコミュニティで特定の銘柄を勧めれば、受講料の対価として行った講座の延長と見られ、無償だから助言に当たらないとはいえません。二点目は、受講契約が終了した後は、受講契約の禁止事項が及ばないことです。受講者どうしの投資勧誘の禁止も、教材の利用の禁止も、受講契約の条項である以上、契約が終われば効力を失うのが原則です。

そのため、修了後もコミュニティを続けるなら、コミュニティへの参加を条件として、別の利用規約に同意してもらいます。規約には、受講契約と同じ禁止事項(受講者間の金銭の貸し借り・出資・投資案件・暗号資産案件の勧誘の禁止、受講者間の取引への不関与)と、運営者がコミュニティで投資判断の助言をしないことを書きます。講座の期間中に禁止していたことが、修了した翌日から自由になる、という空白を作らないためです。

ヒヤリングの問い|教材・コミュニティ・講師の条項を作る前に

  1. 受講者どうしが自由に投稿・連絡できる場はありますか。修了後も続きますか。

    受講者間の勧誘の禁止と、修了後のコミュニティの規約が必要かどうかが分かります。

  2. 講座の中で、秘密として扱いたい具体的な手法や情報はありますか。

    秘密情報として特定する対象を決めます。一般的な考え方は対象にしにくいためです。

  3. 違約金を置く場合、どの違反を想定していますか(家族への共有、引用、販売など)。

    違反の程度に応じた額にし、上限と超過分の請求を決めるためです。

  4. 講師やメンターとの契約に、講座の中での発言の基準は書かれていますか。

    受講者との契約で約束した範囲を、講師の側で守らせる根拠になります。

起きがちなこと

よくあるご質問

受講生どうしの投資勧誘は、どうやって止めればよいですか?

受講契約の禁止事項に、他の受講者への金銭の貸借の申入れ・出資の勧誘・投資案件や暗号資産案件の勧誘を名指しで書き、受講者間の取引に事業者が関与しないことを定めます。違反時のコミュニティの利用停止や解除も決め、投稿を見つけたら削除・注意・記録する運用と組み合わせます。

違約金はいくらなら有効ですか?

一律の額ではなく、違反1件ごとに上限を定め、その範囲内で違反の態様や拡散の範囲に応じて合理的に定める額とする書き方を勧めています。そのうえで、違約金は損害の下限という位置づけにし、実害がそれを上回れば差額も請求できると書いておきます。軽い違反に重い額が発動する定めは、消費者契約法10条などで問題になります。

講師が作った動画や教材の権利は、どちらに帰属しますか?

帰属は講師との業務委託契約で定めます。事務所が扱ったFXスクールの講師契約では、作成と同時に運営者に著作権が移転すると定めていました。権利の帰属とあわせて、投資スクールでは講師の発言の基準を契約に書いておくことが欠かせません。

教材をAIに入力することも禁止できますか?

できます。教材の複製や転載の禁止だけでは、生成AIのサービスへの入力が含まれるかがはっきりしないため、事務所の受講契約書では名指しで禁止しています。入力した内容がサービスの学習に使われ、講座の外に出ていくおそれがあるためです。

修了後のコミュニティにも、受講契約の禁止事項は及びますか?

受講契約が終了すれば、その禁止事項は原則として効力を失います。修了後もコミュニティを続けるなら、参加の条件として別の利用規約に同意してもらい、受講者間の勧誘の禁止や、運営者が投資判断の助言をしないことを書いておきます。

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