「稼げる」「利益が出た」の表示と、勧誘の言葉

投資の利益も副業の収入も、将来の不確実な事項です。断定して勧誘すれば、契約書に何を書いても取消しの対象になり得ます。

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「成果を保証しない」と契約書に書いたから、セミナーで「この方法なら月○万円」と話しても大丈夫。この考えが最も危険です。

このページの要点

  • 「この方法なら資産が増える」「○年で○○万円」は断定的判断の提供に直接当たり得る。取消権は締結から5年。
  • 不保証条項・完全合意条項では取消しを防げない。勧誘の言葉そのものを管理する。
  • 受講生の利益報告は正確性・再現性を保証しないと定め、掲載は本人の同意と時点・期間・自己申告かの明示を条件にする。
  • 先行価格は実際に改定しなければ有利誤認。次回の価格と切り替えの時期を示す。

結論:「稼げる」「利益が出た」は、契約書の免責では消えない

結論

投資・副業スクールで「この方法なら資産が増える」「受講すれば月○万円」と伝えて契約させれば、消費者契約法4条1項2号の断定的判断の提供として取り消され得ます。取消しは、契約書の不保証条項や完全合意条項では防げません。勧誘の言葉、受講生の利益報告の扱い、成果保証の表示、価格の表示を、契約書とは別に管理する必要があります。

消費者契約法4条1項2号は、事業者が勧誘をするに際し、物品・権利・役務その他の契約の目的となるものに関し、将来における価額、将来において消費者が受け取るべき金額その他の将来における変動が不確実な事項について断定的判断を提供し、消費者がその内容が確実であると誤認して契約した場合に、取消しを認めています。投資の利益も、副業の収入も、将来において受け取るべき金額であり、変動が不確実な事項です。

女性向けのマネー・資産形成講座のレビューで、事務所は「この方法なら資産が増える」「○年で○○万円」という言い方は、この条文の文言に直接当たると指摘しました。そして、契約書に「成果を保証しない」と書いても、「本契約が当事者間の合意のすべてである」という完全合意の条項を置いても、勧誘の場で断定的判断を提供していれば取消しを防げないことを説明しています。取消しの対象は勧誘の言葉そのものであり、契約書の文言はそれを打ち消さないからです。完全合意の条項は、契約の内容が契約書に書かれたものに限られることを確認する条項であって、契約を結ぶ意思表示が勧誘の言葉による誤認に基づいていたかどうかとは、問題の場面が違います。受講者は「契約書の内容を誤解した」と主張するのではなく、「勧誘の言葉を信じて契約した」と主張するのです。取消権の行使期限は、追認できる時から1年、締結から5年です(消費者契約法7条1項)。

同じレビューでは、4条3項の困惑類型にも触れています。4条3項5号は、社会生活上の経験が乏しいことから、進学・就職・結婚・生計その他の社会生活上の重要な事項に対する願望の実現に過大な不安を抱いていることを知りながら、その不安をあおり、正当な理由がないのに契約が必要だと告げることを、同項7号は、加齢又は心身の故障により判断力が著しく低下していることから、生計などについて現在の生活の維持に過大な不安を抱いていることを知りながら、その不安をあおり、契約しなければ現在の生活の維持が困難になると告げることを、それぞれ取消しの事由にしています。「このままでは老後が危ない」という言い方は、マネー講座の勧誘で最も使われやすい言葉の一つであり、相手の状況によってはこれらの類型に近づきます。

禁句の一覧と、実績に触れるときの注記

このレビューと並行して作った発言ガイドラインでは、勧誘と講座の両方で使わない言葉を禁句として一覧にしました。

勧誘・講座で使わない言葉と、その理由(マネー・資産形成講座)

赤:話さない断定の言葉

  • 「必ず」
  • 「確実に」
  • 「誰でも」
  • 「再現性があります」

赤:話さない不安をあおる言葉

  • 「このままでは老後が危ない」

赤:話さない見通しの断定

  • 「今後は上がる」

断定の言葉と見通しの断定は4条1項2号の断定的判断に、不安をあおる言葉は4条3項の困惑類型に近づきます。

実績に触れることそのものを禁じているわけではありません。運営者自身の成績や受講者の成果は、講座の価値を伝える材料になります。ただし、触れるときには必ず注記を添える、というのがガイドラインの決めごとです。セールス代行のスクールの受講契約書には、この決めごとを条文の形で入れました。「『1商談で数万円』『セールス代行で月○万円から○万円』等の表示は、特定の条件の下での個別の事例である」という項です(第38条2項)。数字を示すなら、その数字がどの条件の下での誰の事例なのかを、同じ場所で示します。

現物資産のオーナー権の取引と委託保管・再販売のWebサービスの利用規約でも、将来の見通しについての記載は断定的な判断ではない、という条項を置いています。ただし、この種の条項は、規約の側で「断定ではない」と宣言するものであり、勧誘の場で断定的な言葉を使わないことの代わりにはなりません。規約に書いてあっても、販売ページで「数年で価値が上がる」と伝えれば、その表示が問題になります。表示の側と規約の側の両方で、同じ控えめさを保つ必要があります。

投資スクールでは、表示の問題と投資助言の線引きの問題が重なることもあります。販売ページで「講師が厳選した銘柄を毎週お知らせ」「この講座の推奨通貨ペアで勝率○%」とうたえば、利益の表示として断定的判断の提供に近づくだけでなく、講座の中身が個別の投資判断の提供であることを、事業者自ら表示していることになります。契約書で「投資助言を行わない」と書いていても、販売ページがそれと逆のことを示していれば、講座の実態は販売ページの側で判断されかねません。契約書の線引きの書き方は投資助言との線引きで扱います。

営業キャリアスクールの作成方針でも、事務所は表の形で注意すべき表現を挙げました。「受講すれば3か月で年収○万円アップ」「必ず内定」といった表現は、消費者契約法4条1項2号だけでなく、電話勧誘販売に当たる売り方なら特商法21条の不実告知の禁止、通信販売の広告なら同法12条の誇大広告の禁止にも関わります。この方針の中では、在宅ワークの求人をきっかけに高額のコンサルティング契約へ誘う手口や、Web会議での無料カウンセリングから高額の契約に至る相談について、公的機関が注意を呼びかけていることも紹介しています。副業スクールの勧誘は、こうした手口と外形が似やすいことを前提に、言葉を選ぶ必要があります。

特商法21条は、電話勧誘販売の勧誘で、役務の内容、対価、解除の扱いなどについて事実と違うことを言うのを禁止しています。「必ず内定」「受講すれば年収が上がる」という言葉が、講座の内容や効果について事実と異なる説明として評価されれば、この規定にも触れます。消費者契約法の取消しが受講者の側の権利であるのに対し、特商法の禁止は事業者に対する行政の規制の根拠にもなる、という違いがあります。勧誘の言葉の管理は、受講者との個別の紛争だけでなく、事業そのものの継続に関わる問題です。

投資スクールでは、勧誘の場で受講者の資金の出どころに触れる言葉にも注意が要ります。FX・株式・デイトレードの投資学習スクールの確認書には、「入会の資金のために、消費者金融などから借入れをするよう指示・誘導されなかった」という項目と、「当初から取引をするのではなく、十分に学習・練習してほしいという説明を受けた」という項目を置きました。高額の受講料を借入れで払わせ、受講後すぐに取引で取り戻せると伝える勧誘は、断定的判断の提供と、生活の維持への不安をあおる困惑の両方に近づくからです。勧誘の言葉の側でも、「受講料はすぐに取り戻せる」という言い方は使わない、と決めておきます。

受講生の利益報告・コミュニティの投稿をどう扱うか

投資スクールでは、受講者どうしのコミュニティに「今日は○万円の利益」という投稿が並ぶことがあります。こうした投稿は他の受講者の意欲を高める一方で、講座を続ければ同じ利益が出るという期待を生み、運営者がそれを勧誘に使えば断定的判断の提供に近づきます。FX・株式・デイトレードの投資学習スクールの入会契約書では、第20条5項で次のように定めました。

条文例入会契約書 第20条5項(コミュニティの投稿)

  1. 本コミュニティにおける他の受講者の投稿、利益の報告及び取引の結果は、その正確性及び再現性を保証するものではありません。個別の利益の報告は、投稿者に固有の条件の下での結果です。

運営者が投稿を宣伝に転用するときは、この項の考え方に加えて、投稿者本人の同意と、表示の際の注記が必要です。

この項が「正確性」と「再現性」の二つを分けて書いているのには意味があります。正確性は、投稿された利益の数字がそもそも正しいかという問題です。受講者の自己申告の数字は、事業者が確かめたものではありません。再現性は、仮に数字が正しくても、他の受講者が同じ方法で同じ結果を得られるかという問題です。投資の結果は、資金の額、取引の時期、相場の状況によって変わります。「投稿者に固有の条件の下での結果」と書くのは、この二つ目の点を受講者に伝えるためです。コミュニティを運営者が管理している以上、そこに並ぶ投稿の印象は、運営者の勧誘と切り離して受け取られないことがあります。

受講生の実績を販売ページに載せたいという要望も出てきます。セールス代行のスクールでも、依頼者から「受講実績を原則として掲載したい」という要望が出され、事務所は二つの条件を示しました。一つは、顔写真・氏名・商談の動画など本人を特定できる素材は、掲載の都度、本人の同意を得ること。もう一つは、売上や成約率などの数字を載せるときは、いつの時点の、どの期間の数字か、本人の自己申告か事業者が確認したものかを明示することです。受講者の数字は、条件を示さなければ、誰でも同じ結果が出るという表示として読まれます。

事務所の改訂例|受講実績の掲載(セールス代行スクール)

掲載の同意

改訂前受講実績は、原則として掲載できるものとしたい。(依頼者の希望)
改訂後顔写真・氏名・商談の動画など本人を特定できる素材は、掲載の都度、本人の同意を得る形にしました。

理由本人を特定できる素材を包括的な同意で使えば、受講者が想定しない場面で使われ、個人情報の扱いとしても問題になります。

数字の示し方

改訂前売上・成約率などの数字を、そのまま掲載する。(依頼者の希望)
改訂後いつの時点の、どの期間の数字か、本人の自己申告か事業者が確認したものかを明示する形にしました。

理由条件のない数字は、誰でも同じ結果が出るという表示として読まれ、実際より著しく優良であると示す表示に近づくためです。

運営者が頼んで受講生に投稿や体験談を書いてもらい、運営者の広告だと分からない形で広めると、景品表示法5条3号の告示による規制、いわゆるステマ規制にも触れます。マネー・資産形成講座のレビューで表示を点検する観点として挙げたのは、実績を実際よりずっと良く見せる優良誤認(景品表示法5条1号)と、このステマ規制の二つでした。

受講生の投稿を紹介する場面は、二つに分けて考えると整理しやすくなります。一つは、受講生が自発的にSNSに書いた感想を、運営者がそのまま紹介する場面です。この場合も、運営者の販売ページに載せれば運営者の表示になるため、内容が実際より優良に見えないか、条件の注記があるかを確かめます。もう一つは、運営者が受講生に依頼して、特典と引き換えに感想を書いてもらう場面です。この場合は、受講生自身のSNSに載った感想でも、運営者による広告だと読み手に伝わる形にしておく必要があります。どちらの場面でも、本人の同意と、利益の数字の条件の明示が前提です。

成果保証の強調表示と、条件の打消し表示

Instagram分析講座の成果保証のレビューでは、スライドの表示の仕方を問題にしました。「成果保証」「目標の数値に達するまでサポート継続」という文字が大きく、保証の条件は小さく書かれていたからです。受講者の目に入るのは大きな文字であり、小さな条件の表示は、強調された表示の印象を打ち消すほどには読まれません。成果保証をうたうなら、保証の意味と条件を、強調した表示と同じ場所に、読み取れる大きさで書きます。

さらにこのレビューでは、スライドの保証の条件(保証の対象から外す投稿)と、契約書の保証の条件が一致していないことも指摘しました。契約の内容として優先するのは契約書なので、スライドで外したつもりの投稿も、契約書の条件では保証の対象になり、事業者が想定したより緩い基準で保証の義務を負うことになります。表示と契約を一致させる作業は、受講者のためだけでなく、事業者自身の義務の範囲を確定させるためでもあります。保証制度の条文の作り方は案件紹介制度・初案件保証で扱います。

表示と書類を一致させる点検の順番

  1. 販売ページ・広告「稼げる」「保証」「先行価格」などの表示と、その条件の書き方を確かめる
  2. セミナーのスライド・個別相談のスクリプト販売ページより強い言葉や、契約書と違う条件が使われていないかを確かめる
  3. 確認書・確認メッセージ受講者が条件を確認したことを残す項目が、表示と対応しているかを確かめる
  4. 契約書保証の条件・価格・精算が、上の三つと同じ内容になっているかを確かめる

この順で突き合わせていけば、前に見た成果保証の例のような、スライドと契約書の条件のずれを拾えます。

モニター価格と先行価格:書面の対価と表示を食い違わせない

価格の表示も、「稼げる」と並んで問題になりやすい点です。マネー・資産形成講座の販売では「超先行価格」という表示が使われていました。事務所は、先行価格の後に実際に価格を改定しないのであれば、実際より有利であると誤認させる表示(景品表示法5条2号)に当たり得ると指摘し、次回の価格と切り替えの時期を示すよう求めました。「今だけ」と伝える以上、その「今」が終わった後の価格を示せるようにしておく、ということです。

先行価格の表示で問題になるのは、価格の数字そのものより、その価格が「いつまで」で、その後「いくら」になるのかが示されていないことです。募集のたびに「今回だけの特別価格」を繰り返していれば、特別価格が実際には通常の価格であり、通常の価格として示した額では売られていないことになります。講座を期ごとに募集する事業では、期ごとの価格を記録しておき、表示した次回の価格で実際に募集したことを後から示せるようにしておきます。

物販の始め方として相談を受け、のちにコーチングに変わった案件では、「書類や表記に本来の価格を書き、実際はモニター価格で売ってよいか」というご質問がありました。事務所の回答は、場面ごとに分かれます。

本来価格とモニター価格の書き方(ご質問への回答)

  • 当たる方向書類には本来の価格を載せ、実際はモニター価格で請求する電話勧誘販売に当たる売り方で交付する申込書面・契約書面には役務の対価を書く必要があり(特商法18条1項2号、19条1項)、実際と異なる対価の記載は虚偽の記載として罰則の対象になり得ます(同法71条1号)。
  • 当たり得る本来の価格とモニター価格を併記し、割引として表示する本来の価格での販売の実績がなく、将来その価格で売る根拠もなければ、有利誤認の表示(景品表示法5条2号)に当たり得ます。具体的な改定の予定があるなら、時期と条件を付けて示します。
  • 当たらない方向実際に請求する額だけを表示する書面の記載とも表示とも一致し、問題が生じにくい書き方です。

決済代行会社の審査のために別の価格を届け出ている場合の問題は、これとは別に整理が必要です。

本来の価格を示したいという希望の背景には、モニター価格が「本当の価値より安い」ことを受講者に伝えたいという気持ちがあります。事務所の回答は、本来の価格を示すなら、具体的な改定の予定があることを前提に、いつから、どういう条件でその価格になるのかを書く、というものです。改定の予定がないのに本来の価格を並べれば、受講者に示しているのは割引の大きさではなく、根拠のない比較になります。

価格や成果の表示は、通信販売の広告の誇大広告の禁止(特商法12条)にも関わります。同条が禁じるのは、役務の内容などについて事実と大きく食い違う表示や、実際より著しく優れている、又は著しく有利だと誤解させる表示です。講座の成果の表示は「役務の内容」に、先行価格やモニター価格の表示は取引の条件に関わる表示として、それぞれこの規定と景品表示法の両方から点検します。勧誘の記録を残し、受講者が「断定的な説明は受けていない」ことを確認する書類の作り方は確認書・申込み前確認メッセージで扱います。講座の中での発言の管理は発言ガイドラインで扱います。

ヒヤリングの問い|表示を点検する前に

  1. 販売ページ・SNS・セミナーのスライド・個別相談で、収入や利益の数字を示していますか。

    数字を示している場所ごとに、条件の注記があるかを確かめます。

  2. 受講生の感想や利益の報告を宣伝に使っていますか。その中に、運営者が頼んで書いてもらったものは含まれますか。

    本人の同意と、運営者の表示であることの明示が必要かどうかが分かれます。

  3. 成果保証や返金保証をうたっていますか。その条件は契約書と同じですか。

    表示と契約の条件の不一致は、契約書の緩い条件で義務を負う原因になります。

  4. 先行価格やモニター価格を表示していますか。その後の価格の改定の予定は決まっていますか。

    改定の予定がなければ、有利誤認の表示になり得ます。

起きがちなこと

よくあるご質問

受講生の利益報告を販売ページに載せてもよいですか?

載せるなら、本人の同意を得たうえで、その結果が投稿者に固有の条件の下でのものであり、正確性や再現性を保証しないことを注記します。売上や利益の数字は、時点・期間・自己申告か事業者の確認かを明示します。条件を示さなければ、誰でも同じ結果が出るという表示として読まれます。

「月○万円」という目標は、どこまで書けますか?

数字を示すなら、それが特定の条件の下での個別の事例であることを同じ場所で示します。勧誘の場で「受講すれば月○万円」と断定すれば、消費者契約法4条1項2号の断定的判断の提供として取り消され得ます。副業スクールでは、業務提供誘引販売の要件にも近づきます。

確認書に「断定的な説明は受けていない」とサインさせれば、取消しは防げますか?

確認書は、勧誘の内容を後から示す資料になりますが、実際に断定的判断を提供していれば、署名があっても取消しを防げるとは限りません。確認書は、勧誘の言葉を管理したうえで、その事実を記録するための書類です。

「このままでは老後が危ない」と伝えるのは問題ですか?

相手の状況によっては、不安をあおって契約が必要だと告げる困惑類型(消費者契約法4条3項5号・7号)に近づきます。事務所のガイドラインでは、勧誘と講座の両方で使わない言葉として一覧にしています。

期間限定の先行価格を表示してもよいですか?

表示できますが、先行価格の後に実際に価格を改定することが前提です。改定しなければ、実際より有利であると誤認させる表示(景品表示法5条2号)に当たり得ます。次回の価格と切り替えの時期を示しておきます。

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