このページの要点
- NISAなどの制度説明は可、受講者の年収・扶養を前提にした控除額や上限額の計算は税務相談(税理士法2条1項3号)に当たり得る。無償でも同じ。
- 保険は見直しの一般論まで。特定商品の勧奨・代理店への取次ぎは保険募集(保険業法275条1項)に近づく。
- 日本に支店等のない外国保険業者の保険は、受講者本人が事前の許可を要する(同法186条2項)。業務から外す。
- 紹介の対価は受け取らないと契約に書き、プライバシーポリシーの第三者提供の条も合わせて見直す。
結論:家計・資産形成の相談は、金商法の外側の業法にも触れる
家計管理・ライフプラン・資産形成の講座やコンサルティングは、投資助言との線引きだけでは足りません。税理士法(税務相談)、保険業法(保険募集、外国保険)、そして紹介料の受取りが、それぞれ別の線を持っています。契約書では、業務の範囲から外すものを業法ごとに名指しし、紹介の対価を受け取らないことまで書きます。
家計の相談は、収入と支出の整理から始まり、貯蓄、保険の見直し、税金の控除、投資の始め方へと自然に広がります。受講者にとっては一続きの相談でも、法律の上では、それぞれの話題に別の資格や登録が関わります。女性向けのマネー・資産形成講座のレビューで、事務所は隣接する業法を一覧にして、講座で「できること」と「しないこと」を業法ごとに整理しました。
家計・資産形成講座と隣接する業法(レビューで示した整理)
| 法律 | 講座でできること | 講座でしないこと |
|---|---|---|
| 金融商品取引法 | 制度・仕組みの説明、調べ方、類型としての資産配分の紹介 | 価値等の分析に基づく投資判断の助言、個別の商品・配分比率の推奨 |
| 税理士法 | NISAやふるさと納税などの制度の説明 | 受講者の年収・扶養を前提にした控除額や上限額の計算 |
| 保険業法 | 保険の見直しの一般的な考え方 | 特定の保険商品の勧奨、保険代理店への取次ぎ |
| 弁護士法 | 契約や制度の一般的な仕組みの説明 | 受講者の個別の法律事件についての判断 |
表の「しないこと」は、講座の範囲から外すものとして契約書と業務範囲規程に書きます。
税務:制度の説明と、受講者ごとの計算の線
税理士法は、他人の求めに応じて、税務官公署への申告などに関し、租税の課税標準等の計算に関する事項について相談に応じることを「税務相談」とし(税理士法2条1項3号)、税理士又は税理士法人でない者が税理士業務を行うことを禁じています(同法52条)。違反した者には、2年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金という罰則があります(同法59条1項4号)。この規制は有償・無償を問いません。講座の受講料とは別に無料で答えたとしても、それだけで外れるわけではありません。
レビューで示した線は、具体的です。NISAの仕組みや、ふるさと納税の制度がどういうものかを説明するのは講座の範囲です。しかし、受講者の年収や扶養の状況を聞いたうえで、その人のふるさと納税の上限額や控除の額を計算して示すのは、受講者ごとの税額の計算に関する相談であり、講座の範囲を外れます。家計の講座では受講者の収入を知っていることが多く、「ついでに計算してあげる」場面が生まれやすいため、契約書と発言の両方で線を引いておきます。
線が曖昧になりやすいのは、家計簿の添削や個別面談の中です。受講者が源泉徴収票や家計の記録を見せながら「私の場合はいくらまで寄附できますか」と尋ねれば、答えはその人の課税標準等の計算そのものになります。講座の中では、上限額の計算の仕組みや、計算に使える公的な情報の調べ方を説明するところまでにとどめ、その人の数字を当てはめた結果は示さない、という運用が線になります。有償の講座の中で答えたか、無料の質問として答えたかは、この線に影響しません。
法律の相談についても、同じ構造の線があります。弁護士法72条は、弁護士又は弁護士法人でない者が、報酬を得る目的で、一般の法律事件に関して法律事務を取り扱うことなどを業とすることを禁じています。家計の講座で、相続や離婚に伴うお金の話が出たとき、制度の一般的な仕組みを説明することと、その受講者の具体的な紛争について法的な判断を示すことは別のものです。レビューの業法一覧に弁護士法を加えたのは、家計の相談がこうした場面に広がりやすいからです。
保険:見直しの一般論と、勧奨・取次ぎの線
保険業法275条1項は、登録を受けた生命保険募集人など法律が定める者が行う場合を除き、何人も保険募集を行ってはならないと定めています。家計の講座で、保険の見直しの考え方(保障の重複を確認する、必要な保障額を考える、など)を一般論として説明することはできます。しかし、特定の保険商品を勧めたり、保険代理店に受講者を取り次いだりすれば、保険募集(保険契約の締結の代理・媒介)に近づきます。
紹介に対価が伴うと、問題はさらに重くなります。家計・ライフプラン・投資の第一歩をサポートする講座の事前説明で、事務所は、保険会社や募集人から報酬を得ていることを、金融庁の監督指針が「媒介」かどうかを判断する材料の一つにしている点を示しました。手数料を受け取る関係があると、受講者から見て講師の説明が中立でなくなるという利益相反の問題も生じます。
保険の見直しの相談では、受講者から保険証券を受け取ることもあります。保険証券には、病歴など健康に関する情報が含まれていることがあり、これは要配慮個人情報として、取得の段階から本人の同意が必要になります。保険の話題を講座で扱うかどうかは、業法の線だけでなく、どの情報を受け取るかという個人情報の設計にも関わります(マネー講座の個人情報)。
同じ事前説明では、依頼者の既存のプライバシーポリシーにあった「希望に応じて、提供事業者へ個人情報を提供する」という条項にも触れました。受講者の情報を保険や金融商品の提供事業者に渡す仕組みがあること自体が、講座が商品の販売に向けた取次ぎをしていると評価される材料になり得るからです。業務の範囲から保険の取次ぎを外すなら、プライバシーポリシーの第三者提供の条も、それに合わせて見直します。
海外の保険・金融商品は、業務から外す
この事前説明で、事務所が特に強く勧めたのは、海外の保険や金融商品を業務の範囲から外すことです。保険業法186条1項は、日本に支店等を設けない外国保険業者が、日本に住所等を有する人の保険契約を締結することを原則として禁じ、同条2項は、そうした外国保険業者に保険契約の申込みをしようとする者に、申込みの時までに内閣総理大臣の許可を受けることを求めています。つまり、無許可での加入は、勧めた側だけでなく受講者本人が法律に触れる形になります。
海外のファンドの紹介も、金商法の「募集の取扱い」に当たり得ます。依頼者からは「受講者から希望があれば、自分の経験として話すだけにする」という案も出ましたが、事務所は、それが有償の役務の一部として行われる以上、「業として」の評価を免れにくいと回答しました。講座の中で、講師の個人的な経験談という形をとっても、受講料を払った受講者に向けた発言であることは変わらないからです。
投資教育講座の受講契約書でも、事務所は「国内で適法に提供されているサービスの制度は説明するが、国内で登録を受けていない海外の業者への誘導は行わない」という項を置いています(投資助言との線引き)。家計の講座の海外の保険と、投資講座の海外の業者は、話題は違っても構造は同じです。受講者が自分で調べて興味を持つこと自体は止められませんが、講座がその入口になることは避ける、という線です。
ご質問と回答|家計・資産形成の講座で迷いやすいこと
受講者から海外の保険について聞かれたら、経験として話すだけならよいですか。
講座の中で受講者に向けて話す以上、有償の役務の一部として評価されやすく、「経験談だから」という整理は通りにくいと考えます。海外の保険・金融商品は業務の範囲から外し、質問を受けても扱わないと業務範囲規程に書くことを勧めました。
FPや税理士、保険の担当者を紹介して、謝礼を受け取ってもよいですか。
紹介の対価を受け取ると、保険では媒介に当たるかどうかの判断の要素になり、利益相反の問題も生じます。そこで事務所の改訂版では、事業者が第三者を紹介しても、その見返りとなる手数料などは一切受け取らない旨の項を加えました。
受講者から「私の年収だと、ふるさと納税はいくらまでできますか」と聞かれたら、どう答えればよいですか。
その受講者の数字を当てはめた上限額を示すのは、税額の計算に関する相談に当たり得ます。講座では、上限額がどういう仕組みで決まるかと、公的な情報の調べ方を説明するところまでにとどめ、計算の結果は示さない運用を勧めています。
紹介の対価を受け取らないと契約書に書くことには、受講者への説明の意味もあります。講座の中で講師が「この分野はこういう専門の窓口があります」と情報を伝えたとき、受講者は、講師がその窓口から何かを受け取っているのではないかと考えることがあります。手数料を受け取らない旨が契約書にあれば、講師の情報提供が中立であることを、受講者が書類で確かめられます。逆に、紹介の対価を受け取る関係があるのに契約書に何も書いていなければ、後からその関係が分かったときに、講座の説明全体の信用が問われます。
紹介と紹介料:受講生「間」だけでなく、運営者自身の紹介も書く
マネー・資産形成講座の原契約書には、受講生どうしの取引に事業者は関与しないという条(第18条)がありました。受講生間の金融商品や保険の勧誘を事業者が仲介しないという点で、汎用の雛形にはない実務感覚のある条項です。ただし、この条が規律しているのは受講生「間」の紹介だけで、運営者自身が受講者に第三者を紹介する場合の規律がありませんでした。
事務所の改訂例|紹介と紹介手数料
運営者による紹介
理由保険募集・金融商品の取次ぎと評価される材料を断ち、受講者から見た中立性を契約で示すためです。
専門家業務との切り分け
理由家計の相談の延長で商品の話に入ったときに、どこまでが役務かを契約で示すためです。
「保険募集人の登録を前提とする勧誘・募集を行わない」という書き方は、保険業法275条1項の構造に合わせたものです。保険募集は、登録を受けた生命保険募集人などでなければ行えません。家計の講座の運営者が登録を受けていないなら、保険の話題は、見直しの考え方という一般論にとどめ、特定の保険への加入や切替えを勧めることはしない、というのがこの条項の意味です。受講者から見れば、家計の見直しの相談の延長で「では、どの保険に入ればよいか」という質問が出るのは自然なことです。その質問に、講座の範囲で何を答え、何を答えないかを、契約の段階で示しておきます。
家計管理・資産形成の個別伴走と会員制のマネー講座を組み合わせたサービスの契約書では、役務の欄に「資産形成に関する基本的な助言および運用計画の立案支援(投資判断は含まず)」と書いています。役務の名前に「助言」という言葉を使うときこそ、その直後に「投資判断は含まない」と書いて、何についての助言なのかを限定しておくことが大切です。金商法の線引きの書き方は投資助言との線引きで詳しく扱います。
家計管理サポートの案件では、依頼者がAIで作成した原契約書を、事務所がレビュー報告書で評価したうえで改訂しました。原契約書は、家計の改善の手順やサポートの回数は丁寧に書かれていましたが、家計の相談がお金の運用や保険に及んだときに、どこまでが役務なのかを示す条項がありませんでした。家計管理のサービスは、提供者の意識としては「家計簿の付け方を教える」ものでも、受講者の側からは「お金のことを何でも相談できる」サービスに見えます。その期待の広がりを、契約の段階で役務の範囲に合わせておくのが、新設した切り分けの条項の役目です。
マネー・資産形成講座では、受講者が集まるリトリートも企画されていました。依頼者からは、参加を取り消した受講者にイベントの取消料を請求できるかという質問があり、事務所はその回答の中で旅行業法にも触れています。旅行業法は、報酬を得て、旅行の計画の作成や運送・宿泊のサービスの手配などを行う事業を「旅行業」とし(旅行業法2条1項)、旅行業を営むには観光庁長官の登録を求めています(同法3条)。この講座のリトリートは、参加者から報酬を受け取らない構成だったため、結果として旅行業には当たらない形になっていました。しかし、参加費を取って宿泊や移動まで手配するように変えれば、この点を改めて検討する必要があります。取消料そのものの扱いは返金・中途解約の精算で扱います。
業務範囲規程と契約書に、何を書くか
隣接する業法の線は、契約書の一つの条に押し込むより、業務範囲規程として独立させ、契約書からはその規程を参照する形がとりやすくなります。家計の第一歩サポートの事前説明で、事務所が最優先の書類に業務範囲規程を挙げたのはこのためです。規程には、講座で扱うテーマ、扱わないテーマ、扱わないテーマの質問が出たときの応答の仕方を書きます。応答の仕方は発言ガイドラインの定型文とそろえます。
同じ事前説明では、依頼者から「契約書・免責事項・プライバシーポリシー・特商法表記の4点をチェックするといくらか」というご質問を受けました。事務所の回答は、4点という単位そのものがこの事業の実態に合っていない、というものです。事業者が負う義務には三つの層があり、受講者の同意で処理できるのはそのうちの一つだけだからです。
事業者が負う義務の三つの層(事前説明で示した整理)
- 第1層:合意受講者との契約で決めること(役務の内容、支払、解約、責任の範囲など)。受講者の同意で内容を決められる
- 第2層:表示・交付特定商取引法の表示や書面の交付など、売り方の類型に応じて法律が求めること。同意があっても省けない
- 第3層:業規制金融商品取引法・保険業法・税理士法などが、資格や登録のない者に禁じていること。同意があっても許されない
「免責事項」という独立の文書を置いても第2層・第3層の義務は消えず、かえって扱っている商品名や海外の商品を自ら示す材料になりかねない、と回答しました。
そのうえで事務所は、作業を三つのブロックに組み直すよう提案しました。まず業務の範囲を確定させ、次に特定商取引法の類型と、それに応じた書面と表示を決め、最後に契約書・個人情報・内部の規程を作る、という順番です。業法の線は、この最初のブロックで決まります。
条文例業務範囲規程(扱わないテーマの例)
- 当社は、本講座において、次の事項を扱いません。
(1) 価値等の分析に基づく投資判断に関する助言並びに個別の金融商品の売買、選択、時期、数量及び配分の比率の推奨又は指示
(2) 受講者の所得、扶養その他の個別の事情を前提とした税額、控除額又は寄附の上限額の計算
(3) 特定の保険商品の勧奨並びに保険会社及び保険代理店への取次ぎ
(4) 日本に支店等を設けない外国保険業者の保険商品及び海外の金融商品の紹介
(5) 受講者の個別の法律事件に関する判断 - 当社は、受講者に第三者を紹介した場合であっても、その紹介について手数料その他の対価を受け取りません。
- 前2項に定める事項に関する質問を受けたときは、本講座の範囲外である旨を伝え、回答しません。
各号は、この記事で見た業法ごとの線を、講座の運営者が使う規程の形に並べたものです。契約書からはこの規程を参照し、内容が食い違わないようにします。
ヒヤリングの問い|隣接する業法の線を引く前に
受講者の年収・扶養・保険証券などを受け取りますか。
受け取る情報の種類で、税額の計算や保険の見直しに踏み込む場面が生まれるかどうかが分かります。保険証券には健康に関する情報が含まれることもあります。
保険・金融商品・不動産の事業者と提携や紹介の関係はありますか。対価はありますか。
紹介の対価の有無で、媒介の評価と利益相反の問題が変わります。
海外の保険・ファンド・口座の話題が出ることはありますか。
外国保険業者との契約は受講者本人が許可を要する場面があるため、業務から外すかどうかを最初に決めます。
講座の中で、受講者ごとの税額や控除額を示す場面はありますか。
制度の説明にとどめるのか、計算まで行うのかで、税理士法との関係が変わります。
起きがちなこと
よくあるご質問
家計の講座で、保険の見直し相談はどこまでできますか?
保障の重複の確認や必要な保障額の考え方など、見直しの一般的な考え方の説明までは講座で扱えます。特定の保険商品を勧めたり、保険代理店に取り次いだりすると保険募集(保険業法275条1項)に近づくため、講座の範囲から外します。
NISAやふるさと納税の説明は、税理士法に触れますか?
制度の仕組みを説明することは講座の範囲です。受講者の年収や扶養を前提に、その人の控除額や上限額を計算して示すと、税務相談(税理士法2条1項3号)に当たり得ます。税理士法の規制は有償・無償を問いません。
FPや税理士を紹介して謝礼を受け取ってもよいですか?
紹介の対価を受け取ると、保険の分野では媒介に当たるかどうかの判断の要素になり、受講者から見た中立性も損なわれます。事務所の改訂例では、紹介の見返りとなる手数料などを受け取らないことを契約書に明記しています。
受講者から海外の保険について聞かれたら、どうすればよいですか?
日本に支店等のない外国保険業者との保険契約は、申込みをする受講者本人が事前に内閣総理大臣の許可を要する場合があります(保険業法186条2項)。海外の保険・金融商品は業務の範囲から外し、質問を受けても扱わない旨を業務範囲規程に書いておくことを勧めています。
役務の名前に「助言」という言葉を使ってもよいですか?
使う場合は、何についての助言かを限定することが大切です。事務所の契約書では「資産形成に関する基本的な助言および運用計画の立案支援(投資判断は含まず)」のように、直後に投資判断を含まないことを書いています。
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本ページは一般的な情報提供です。個別の講座やサービスが投資助言・代理業、業務提供誘引販売取引などに当たるかは、勧誘の方法や講座の実態によって結論が変わります。本サイトは個別の投資判断や投資の助言を行うものではありません。事務所の改訂例・ご相談の事例として紹介している内容は、アトラス行政書士法人が作成・レビューしてきた投資教育講座・投資学習スクール・マネー講座・家計管理サービスの受講契約書、入会契約書、申込書面、確認書、利用規約、副業スクールの受講契約書とレビュー、案件紹介制度の規約、FX自動売買ソフトの契約のレビュー、取引データサービスの利用規約とプライバシーポリシー、講師との業務委託契約書などを、個別の事業者が特定できない形に整理したものです。条文は e-Gov法令検索で確認しています(最終確認日:2026年10月17日)。参考: e-Gov法令検索 / 特定商取引法ガイド(消費者庁) / 金融庁