このページの要点
- 添削は、受講者が自ら行った取引について、分析の過程・検証の方法・リスク管理を見る教育目的のものと定義する。
- 「回数無制限」は送信の回数に上限がない意味とし、即時・期限内・反復・範囲外の回答は保証しない。
- 回数制限なしを稼働時間と調整権限で薄めると、債務の内容が確定せず、中途解約の精算で説明ができない。
- 欠席を提供済みと扱えるのは、アーカイブがある回や予約の機会を提供した回に絞る。
結論:添削・面談・チャットは「何を見て、何を言わないか」と「回数の意味」を定義する
トレード添削、個別添削、個別面談、回数無制限の質問サポートは、投資スクールの価値の中心であると同時に、投資助言との線を越えやすい場面です。契約書では、添削の対象と目的を「教育」として定義し、具体的な投資判断に踏み込まないことを書いたうえで、「回数無制限」「質問し放題」が何を約束し何を約束しないのかを定めます。
講義型の講座なら、講師は全員に向けて一般論を話せば足ります。しかし、受講者が自分の取引履歴やチャートを送り、それに講師がコメントする添削の場面では、話の前提が受講者個人の取引になります。投資助言との線引きで見たとおり、金商法が規制するのは個別の投資判断についての助言であり、添削はその入口に最も近い役務です。だからこそ、添削を売りにする講座ほど、添削の定義を契約書の中で丁寧に書く必要があります。
トレード添削を「教育」として書く
FX・株式・デイトレードの投資学習スクールの入会契約書では、事務所は添削の性質を定める項を次のように置きました。添削で見るのは受講者の判断の過程と検証の方法であり、次に何を売買すべきかではない、という整理です。
条文例入会契約書 第19条3項(課題・添削の性質)
- 課題、過去検証又は受講者の取引内容の確認及び添削は、教育目的で、分析の過程、検証の方法、リスク管理その他一般的な学習事項について行うものであり、特定の金融商品の購入、売却、保有、取引時期、数量、価格その他具体的な投資判断を指示し、又は推奨するものではありません。
「確認及び添削」の対象に受講者の実際の取引を含めたうえで、その目的と見る観点を限定しています。対象を外すのではなく、見方を限定する書き方です。
このスクールが後から加えた新しいコースでは、添削そのものを商品の中心に据えました。そこで定義の条で「乙が自ら行った取引の内容に関する教育目的の確認及び添削(回数無制限。以下『トレード添削』という。)」と定義語を作り、契約書の全体でこの語を使うようにしています。「乙が自ら行った取引」と書くことで、添削の対象は受講者が自分の判断ですでに行った取引であり、これから行う取引の判断を事前に仰ぐものではない、という時間の向きもはっきりします。
添削の場面で講師が言ってよいことは、たとえば「このエントリーは、あなたが決めたルールのどの条件を満たしていたか」「損切りの位置をどう決めたか」「検証の期間は十分か」といった、受講者自身のルールと過程を問う内容です。反対に「次はここで買えばよい」「この通貨ペアは今週は避ける」は、具体的な投資判断の指示であり、添削の定義の外に出ます。添削が受講者の過去の取引を振り返るものであるのに対し、相場を見ながら一緒に取引の判断をするライブの場面は、これから行う取引の判断に直接関わります。投資教育講座の受講契約書で、行わない行為に「エントリー又は決済のタイミングの指示又は示唆(リアルタイムで行うものを含む)」を挙げたのは、この違いを踏まえたものです。添削の定義を整えても、ライブの場面で同じ線を守れなければ意味がありません。この区別を講師が現場で守れるように、発言ガイドラインと組み合わせて使います。
添削のコメントは「教育」の範囲か
- 当たらない方向「このエントリーは、あなたのルールのどの条件を満たしていましたか」受講者自身のルールと判断の過程を問うもので、分析の過程・検証の方法という一般的な学習事項に当たります。
- 当たらない方向「損切りの位置を決めた根拠を、次回の添削で説明してください」リスク管理の考え方を受講者に組み立てさせる問いで、具体的な売買の指示ではありません。
- 当たる方向「この通貨ペアは、今週は避けた方がよいです」特定の金融商品の取引時期についての判断を示しており、添削の定義から外れます。
- 当たり得る「同じ場面なら、ロットをもう少し落としてもよかったかもしれません」過去の取引の振り返りの形をとっていても、数量についての具体的な判断に踏み込んでいます。資金管理の考え方の説明にとどめる言い方に直します。
判定は、添削の定義(教育目的で、分析の過程・検証の方法・リスク管理その他一般的な学習事項について行う)に照らしたものです。
「回数無制限」「質問し放題」は、何を約束しているのか
同じ新しいコースで、事務所は「回数無制限」の意味を本文で定めました。回数無制限とは、受講者が添削の依頼を上限なく送信できるという意味であり、即時の回答、一定の期限内の回答、同じ内容への繰り返しの回答、講座の範囲外の質問への回答までを保証するものではない、という定め方です。販売ページで「無制限」とうたう以上、その言葉の意味を契約で限定しておかないと、受講者は「すぐに、何度でも、何についても答えてもらえる」と受け取ります。
条文例入会契約書 第5条2項・3項(トレード添削の回数無制限)
- トレード添削の「回数無制限」とは、乙が添削の依頼を回数の上限なく送信できることをいいます。
- 甲は、トレード添削について、即時の回答、一定の期限内の回答、同一の内容についての反復した回答及び本講座の範囲外の事項についての回答を保証するものではありません。
販売ページの「無制限」という言葉を、契約書の中で「送信の回数に上限がない」という意味に限定しています。
「回数無制限」の定義で書き分けたこと
| 項目 | 約束すること | 約束しないこと |
|---|---|---|
| 送信 | 添削の依頼を上限なく送信できる | ― |
| 回答の時期 | 運営者が定める対応時間内に順次回答する | 即時の回答、一定の期限内の回答 |
| 同じ内容 | 必要に応じて補足する | 同じ内容への繰り返しの回答 |
| 範囲 | 講座で扱う学習事項についての添削 | 講座の範囲外の質問、具体的な投資判断に関する質問への回答 |
このスクールでは、月例のセミナーについても書き方を検討しました。「月1回程度」と書いて標準的な頻度を示すにとどめ、開催を保証しない書き方と、「月1回開催」と書いて開催を約束する書き方です。このスクールでは、依頼者の意向どおり「月1回開催」としています。開催を約束するのか、目安を示すのかは事業者が選ぶことですが、約束した以上は開催できなかった月の扱い(振替や精算)も決めておく必要があります。
開催を約束する書き方を選んだときは、講師の急病や通信の障害でその月に開催できなかった場合に、翌月以降に振り替えるのか、アーカイブの配信で代えるのか、その回の分を精算するのかを、あらかじめ決めておきます。決めていなければ、開催できなかった月が出るたびに、受講者ごとに個別の対応を迫られます。「程度」と書く場合でも、標準的な頻度を大きく下回る状態が続けば、講座の内容が販売時の説明と違うと受け取られるため、目安としての頻度は守る運営が前提です。
マネー・資産形成講座のレビューでは、逆向きの問題を指摘しました。原契約書は個別コンサルを「回数の制限なし」としながら、別の条で「講師の稼働時間内に限る」「実施時期は講師が調整できる」と定めていました。これでは、回数の制限がないという約束が、稼働時間と調整の権限によって実質的に薄められ、どれだけ提供すれば債務を果たしたことになるのかが確定しません。債務の内容が事業者の裁量で決まる条項は、消費者契約法10条の観点からも不利に評価されやすくなります。
この問題は、中途解約の場面で表に出ます。受講者が途中でやめたいと申し出たとき、事業者は「すでにこれだけ提供した」と説明する必要がありますが、回数の制限がなく、実施の時期も事業者が調整できる約束では、提供した量を数える基準がありません。受講者の側からは「予約が取れなかったのだから、提供されていない」という主張が出ます。販売の場面では魅力的に見える「回数無制限」が、精算の場面では事業者の説明を難しくする、という構造です。
ご質問と回答|添削の場面で迷いやすいこと
添削のやり取りの中で、受講者から「では次はどこで入ればよいですか」と聞かれたら、どう答えればよいですか。
添削の定義の外にある質問として、その場では答えません。代わりに、受講者自身のルールに照らしてどの条件を確認すべきかを問い返し、判断は受講者が行うことを伝えます。同じ質問が繰り返し来るなら、次回の講義で受講者が特定されない形に一般化して、判断の手順として扱います。
「回数の制限なし」を約束として生かすなら、1回あたりの時間や予約の方法など提供の単位を決め、その単位で何回でも受けられる、という形で債務の中身を確定させる必要があります。単位が決まっていなければ、提供した・しなかったを後から判断する基準がありません。同じレビューでは、質問サポートの書き方の矛盾も指摘し、契約書の改訂版で直しています。
事務所の改訂例|質問サポートの位置づけ
役務の条と、サポートの条
理由役務として約束したものを、別の条で任意の行為のように書くと、条項どうしが矛盾し、何を約束したのかが読み取れなくなります。
個別添削・オーダーメイドは、それだけで助言に近づく
家計管理・資産形成のマンツーマン講座のレビューで、事務所は「完全マンツーマン、個別添削、オーダーメイドのタスク管理」という講座の特徴そのものが、受講者の個別の判断に影響し得る点を指摘しました。講座の売りが個別性にある場合、「一般的な情報提供」と書くだけでは、講座の実態と契約の文言が離れます。
このレビューで条文に落とすよう求めた4点のうち、添削と面談に直接関わるのは「面談・添削も、投資助言に当たらない範囲で行う」と「受講者の個別の状況への適合性を保証しない」の二つです。前者は、個別の場面であっても役務の性質は一般的な情報提供であることを、面談・添削という具体的な役務の名前を挙げて確認するものです。後者は、オーダーメイドのタスクや添削のコメントが、その受講者にとって最適な選択であることまでは約束しない、という限定です。個別性を売りにしながら、個別の「結論」は渡さないという線を、役務の名前ごとに条文の上で引いておく考え方です。資産形成の相談が保険や税金に及ぶときの線は家計相談と隣接する業法で扱います。
欠席・アーカイブ・予約制の回:「提供した」とみなせるか
添削や面談とあわせて問題になるのが、受講者が欠席した回の扱いです。マネー・資産形成講座の原契約書には、欠席した回も提供済みと扱う条項が入っていました。事務所はレビューで、この条項が問題になる場面を二つ挙げています。一つは、アーカイブ配信のない回です。後から視聴できない回を欠席した受講者に「提供済み」とするのは、実際には何も受け取っていない部分に対価を払わせることになります。もう一つは、予約制の回です。予約の枠が足りずに受けられなかった回まで欠席と同じに扱えば、事業者側の事情で提供できなかった部分も「提供済み」になってしまいます。
この指摘に沿って書くなら、欠席を提供済みと扱えるのは、後から視聴できるアーカイブがある回と、事業者が予約の機会を実際に提供したのに受講者が予約しなかった回、というように、受講者が受け取る機会を得ていた場合に絞ることになります。どの回を提供済みと数えるかは、中途解約のときの精算の計算にもそのまま影響します。精算の考え方は返金・中途解約の精算で扱います。
回数の決まった個別面談:記録の様式まで用意する
家計・ライフプラン・投資の第一歩をサポートする講座は、個別のZoom面談を全7回行い、その間の質問をDiscordで受ける構成でした。事前説明で事務所が示した書類のうち、面談に直接関わるのは、面談スクリプトと禁止表現の一覧、そして面談記録の様式です。回数が決まっている面談は、1回ごとに何を扱ったかが受講者にも事業者にも見えやすく、記録を残す意味が大きくなります。
面談記録には、その回に扱ったテーマだけでなく、扱わなかったことも残しておくと役に立ちます。受講者から具体的な商品や配分について質問があり、講座の範囲外として答えなかったこと、次回の講義や面談で一般化して扱うと伝えたこと、冒頭の宣言を行ったことです。後から「面談で勧められた」という申出があったとき、範囲外の質問に答えなかった記録は、勧めていないことを示す具体的な材料になります。
面談記録に残しておきたい項目(例)
| 項目 | 残す理由 |
|---|---|
| 日時・回数・担当者 | 何回目の面談か、誰が担当したかを特定し、回数の精算の基礎にする |
| 冒頭の宣言の実施 | 毎回、講座の範囲を伝えたことを示す |
| 扱ったテーマ | 役務を提供した内容を示す |
| 範囲外として答えなかった質問 | 個別の商品・配分・税額などに踏み込んでいないことを示す |
| 次回に回した事項 | 保留した質問を、一般化して扱ったことまで追えるようにする |
Discordなどで受けた質問も、範囲外として答えなかったものは、同じ考え方で記録しておきます。
面談を録画するかどうかは、記録の残し方の選択の一つです。家計管理サポートの改訂契約書では、個別面談は受講者の別途の同意がない限り録画も利用もしない、という構成をとりました。面談では家計や資産の具体的な数字が話されるため、録画を残すなら、その目的と保存の範囲を示して同意を得ることが前提になります(マネー講座の個人情報)。録画をしない場合は、面談記録の様式がそのぶん重要になります。
添削や面談を複数の担当者で分ける講座では、担当者によって添削の観点や答え方がばらつくことも問題になります。ある担当者は範囲外として答えなかった質問に、別の担当者が答えてしまえば、受講者は答えてくれる担当者に質問を集中させます。添削の定義と範囲外の質問の扱いを、担当者全員が同じ書類で確認できるようにしておくことが、契約書の定義を実際の運営で守るための条件です。
ツールのサポートは「技術的事項」に限る
FXの自動売買ソフト(EA)のダウンロード販売のレビューでも、サポートの範囲が論点になりました。事務所は、EAのサポートを技術的事項に限定するだけでは足りず、「特定の通貨ペア、売買タイミング、ロット設定その他個別具体的な投資判断に関する助言、推奨又は指示を行わない」「市場分析情報を提供しない」まで書いて初めて実効性が出る、と指摘しています。レビューでは危険な運用の例として、LINEで「今日はドル円ロング」「ロットは0.3で」「今は停止推奨」と送るような場面を挙げました。ソフトの稼働や停止の指示も、使い方の説明を超えれば、投資判断の助言になり得ます。EAの契約全体はEA・投資ツールの使用許諾と規約で扱います。
講座の質問窓口をLINEやDiscordなどのチャットに置く場合も、同じ問題が起きます。チャットは返信が早く、講師と受講者の距離が近いことが魅力ですが、その分、相場が動いた瞬間に「今どうすればよいか」という質問が集まります。契約書で質問サポートの範囲を定め、範囲外の質問には答えないことを書いたうえで、チャットの運用ルールとして、相場の状況に応じた売買や稼働・停止の判断を求める質問には答えないことを、受講者にもあらかじめ示しておきます。受講者が「聞けば答えてもらえる」と期待して質問を送り、講師が断るという場面を、運用の最初から減らしておくためです。
ヒヤリングの問い|添削・面談のサービスを契約書にする前に
添削の対象は何ですか(取引履歴、チャート、課題、家計の記録)。
対象によって、「受講者が自ら行った取引」に限るのか、課題や記録まで含めるのかが変わります。
回答の目安の時間や対応時間はありますか。
「無制限」の意味を定義するとき、何を約束し何を約束しないかの基準になります。
個別面談は録画しますか。面談記録は残しますか。
面談で何を話し、何を話さなかったかを後から示せるかどうかが変わります。録画するなら別途の同意も要ります。
欠席した回のアーカイブはありますか。予約制の回の枠は足りていますか。
欠席を提供済みと扱える回と扱えない回を分けるためです。
添削や面談を担当するのは運営者本人だけですか。
複数の担当者がいるなら、添削の観点と禁止事項を担当者全員にそろえる必要があります。
起きがちなこと
よくあるご質問
トレード添削は、どこまでなら教育の範囲ですか?
受講者が自ら行った取引について、分析の過程・検証の方法・リスク管理など一般的な学習事項を確認することは、教育の範囲として整理できます。特定の金融商品の売買・保有・時期・数量・価格を指示し、又は推奨すれば、具体的な投資判断への関与になります。
「質問し放題」は、契約書でどう書けばよいですか?
質問を上限なく送信できることを約束し、即時の回答・期限内の回答・同じ内容への繰り返しの回答・範囲外の質問への回答までは保証しない、と意味を定義します。販売ページの表現と契約書の定義をそろえておくことが大切です。
個別面談は録画した方がよいですか?
面談で何を話し、何を話さなかったかを後から示す記録として役立ちます。ただし、家計や資産の情報が含まれるため、録画と利用については受講者の別途の同意を得て、保存と利用の範囲を決めておきます。
欠席した回も「提供済み」と扱ってよいですか?
アーカイブ配信があり、後から視聴できる回であれば提供済みと扱う整理がしやすくなります。アーカイブのない回や、予約の枠が足りず受けられなかった回まで提供済みとするのは、受講者が何も受け取っていない部分に対価を払わせることになり、問題になります。
月例セミナーを「月1回程度」と書くのと「月1回開催」と書くのでは、何が違いますか?
「程度」は標準的な頻度を示すもので開催を保証しない書き方、「開催」は開催を約束する書き方です。約束するなら、開催できなかった月の振替や精算の扱いまで決めておく必要があります。
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