副業スクールと業務提供誘引販売取引

分かれ目は「稼げるノウハウを教えるか」ではなく、「スクールが仕事を出し、その収入で誘うか」です。

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契約書に「仕事の紹介は約束しない」と書いても、販売ページに「卒業生には案件を紹介」とあれば、判断されるのは勧誘の全体です。

このページの要点

  • 要件は、特定負担、事業者(提携先を含む)が提供・あっせんする業務、その業務提供利益での誘引の三つ(特商法51条1項)。
  • スキルを教え、受講者が自分で仕事を探す講座は原則として当たらない。スクール経由の案件紹介を報酬とともにうたうと当たり得る。
  • 「紹介できる可能性がある」「収入は保証しない」でも当たることがあり、「月○万円を目指す」と組み合わさると判断されやすい。
  • 当たる場合は概要書面・契約書面と20日のクーリング・オフ。法定の中途解約の制度はない。

結論:分かれ目は「事業者が仕事を出し、その収入で誘うか」

結論

副業スクールが業務提供誘引販売取引に当たるかどうかは、「稼げるノウハウを教えるか」ではなく、「スクール(提携先を含む)が受講者に仕事を出すか紹介し、その仕事の収入を誘い文句にして受講料を払わせるか」で決まります。スキルを教え、受講者が自分で仕事や販売先を探す講座は、原則として当たりません。当たる売り方をするなら、法定の書面と20日間のクーリング・オフに対応した書類一式が必要になります。

特定商取引法(以下「特商法」)51条1項の定義を、講座に引きつけて読みます。業務提供誘引販売業とは、商品の販売や有償の役務の提供(それぞれのあっせんを含む)を行う事業のうち、その商品や役務を使う仕事(売り手や提供者が自分で用意するか、あっせんする仕事に限る)をすれば得られる利益、つまり業務提供利益を受け取れると言って相手を誘い、特定負担のある取引をさせるものです。特定負担とは、商品の購入、役務の対価の支払、取引料の提供をいいます。

この定義を副業スクールに当てはめると、要件は三つに分けて読めます。

業務提供誘引販売取引の三つの要件(特商法51条1項)

  1. ① 特定負担受講者が受講料・教材費・登録料などを支払うこと。名目は問わない
  2. ② 事業者が提供・あっせんする業務受講した内容を使う仕事を、スクール自身が提供するか、提携先などの仕事をあっせんすること
  3. ③ 業務提供利益での誘引その仕事で収入を得られると示して受講者を勧誘すること

②の「自ら提供し、又はあっせんする」業務に限られる点が要です。受講者が自分で探す仕事は②に当たりません。

副業スクールの多くは、①の受講料を受け取り、③のように「学べば収入を得られる」と伝えています。それでも当たらない講座が多いのは、②の要件、つまりスクールが仕事そのものを提供し、又はあっせんするという関係がないからです。インスタ・アフィリエイトの起業支援講座のレビューで、事務所は「単なるマーケティング知識の教授が直ちに該当するわけではなく、事業者が提供・あっせんする業務による利益で誘引しているかを確認する」と整理しています。

当たる場合に求められることは多く、具体的です。契約を結ぶ前には業務提供誘引販売業の概要を書いた書面(概要書面)を、結んだ後には契約の中身を記した書面(契約書面)を渡す義務があります(特商法55条1項・2項)。受講者は、契約書面を受け取った日から数えて20日の間、書面か電磁的記録で解除を通知して契約から離れられます(同法58条1項)。この解除は、解除の通知を送った時点で効力が生じ(同条2項)、この仕組みより相手方に不利な特約は無効です(同条4項)。勧誘の場面では、業務提供利益などについて、故意に事実を伏せることも、事実でないことを言うことも禁じられ(同法52条1項)、その結果誤認して申し込んだ受講者には取消しが認められます(同法58条の2)。広告には特定負担や業務の提供条件などを載せる義務があり(同法53条)、業務提供利益などを誇大に示す広告も禁止です(同法54条)。一方で、この取引類型には、特定継続的役務提供にあるような法定の中途解約権は設けられていません。置かれているのは、契約が解除されたときに事業者が受講者に求められる損害賠償や違約金の額の上限です(同法58条の3)。

58条の3の上限は、解除の時期と商品の返還の有無で区分されています。講座のような役務なら、提供が始まった後の解除では「既に提供した役務の対価に当たる額」、始まる前の解除では「契約の締結と履行に通常かかる費用の額」が基準になり、事業者が求められるのは、その額に法定利率の遅延損害金を足した額までです(同条1項3号・4号)。業務提供誘引販売取引に当たる講座で「受講開始後は一切返金しない」「解約時は残額を一括で支払う」と定めても、契約が解除された場面では、この上限を超える部分は請求できないということです。受講料の未払いがある場合の請求にも、同条2項の上限があります。

58条の2の取消しも、副業スクールでは見落とされやすい規定です。勧誘の際に、業務提供利益(仕事で得られる収入)について事実と異なることを告げ、受講者がそれを事実と誤認して契約すれば、受講者は契約を取り消せます。「この案件は毎月必ずある」「平均で月○万円」と伝えていた案件の量や収入が実際と違えば、クーリング・オフの期間が過ぎた後でも、この取消しが問題になります。

規制が守ろうとしている相手方の範囲も確認しておきます。概要書面・契約書面の交付もクーリング・オフも、提供又はあっせんされる業務を「事業所等によらないで行う個人」が相手方である場合に及びます(特商法55条、58条1項)。在宅で仕事をする個人を守るための規制であり、受講者に「事業者として申し込む」と表明させても、実際に自宅で個人として働く受講者なら、規制の外に出ることはありません。インスタ・アフィリエイトの講座のレビューでも、事務所は「在宅で仕事をする個人を対象とする規制であり、単純な事業者除外の説明は不適切」と指摘しています。

副業スクールの種類ごとの分かれ目

事務所が作成方針や必要書類の案内、レビューの中で業務提供誘引販売取引に当たるかどうかを検討した副業スクールの案件では、結論の骨格は共通しています。「スキルを教えるだけなら当たらないが、スクールや提携先が仕事を出し、その収入をうたえば当たり得る」というものです。違うのは、それぞれの副業で「仕事を出す」が何を意味するかです。次の表は、事務所の書類に出てきた売り方を素材に、要件への当てはめの視点を示したものです。案件ごとの検討結論そのものではありません。

当てはめの視点:副業スクールの売り方と業務提供誘引販売取引(事務所の検討結論ではありません)

  • 当たらない方向営業スキルを教え、受講生が自分で転職活動や案件の獲得をする(オンライン営業キャリアスクール)スクールは仕事を提供もあっせんもしていません。一般的な転職活動の助言も同じです。
  • 当たり得る「卒業後はスクール経由で営業代行の案件を紹介」「月○万円の報酬」と勧誘する(同)スクール(提携先を含む)が仕事を発注・紹介し、その報酬を誘い文句にしています。該当するなら、契約書面の受領日から20日間はクーリング・オフができます。
  • 当たらない方向受講者が自分で仕入れ・販売する方法を教える(物販の始め方の講座として相談)販売先も仕入れ先も受講者が自分で選びます。
  • 当たり得る事業者や提携先が仕入れ商品を販売し「この商品を売れば月○万円」と勧める、出品代行・リサーチ代行の仕事を紹介・発注し報酬を示す(同)受講者が購入する商品を使う業務や、スクールが出す仕事の収入で誘っています。
  • 当たらない方向講座生自身のアカウント・事業を収益化するノウハウを教え、受講料の元が取れるまで支えるという趣旨をうたう(Instagram収益化コンサル)事業者が仕事を提供・あっせんする関係になければ、当たらない方向で整理できます。ただし訴求の内容は確認が必要です。
  • 当たり得る販売ページに「学んだ内容で収入を得られる」「講師として活動できる」とある(マネー・資産形成講座)現在の役務の内容からは当たらないと考えられますが、講師の仕事をスクールがあっせんする意味で読まれれば、該当し得ます。
  • 当たり得る仮に、秘書養成コースの受講者が運営者のコミュニティ内の仕事の募集に応募でき、そのことを勧誘の場で受講のメリットとして伝えた場合(起業講座と秘書養成講座を組み合わせたスクール)運営者が用意した場で仕事があっせんされ、その収入が勧誘の材料になるため、当たり得ます。勧誘の場で伝えていなければ、評価は変わります。

表の判定は要件への当てはめの目安です。物販の講座は、依頼者の回答で「商品の販売も仕事のあっせんもしない」と確定し、当たらないと整理しました。その後、相談の中身はコーチングに変わっています。

表の中で「当たらない方向」とした売り方にも、確認が要る点が残ります。Instagram収益化コンサルでは、受講料に見合う収益が出るまで支援を続けるという訴求について、講座生自身のアカウントと事業を収益化するノウハウであり、事業者が仕事を提供・あっせんする関係にないことから、現時点では当たらないと整理しました。ただし、その整理は「事業者が仕事を出していない」という事実に依存しています。将来、事業者が講座生に企業のPR案件を回す仕組みを加えれば、同じ訴求のまま評価が変わります。レビューの中で「要確認」としたのはこのためです。

マネー・資産形成講座の「講師として活動できる」という表現も同じです。講座を修了した人が自分で講座を開くことを応援する意味なら、受講者が自分で仕事を作ることであり、②の要件に当たりません。しかし、「当社の講座の講師として仕事を任せる」という意味で読まれれば、事業者が仕事を提供する関係になります。事務所は、現在の役務の内容からは当たらないと考えつつ、販売ページでの訴求の内容を確認する必要があると伝えています。同じ言葉でも、誰が仕事を出すのかによって、結論が変わります。

転職先の紹介は、業務提供誘引販売とは別の規制にも関わります。営業キャリアスクールの作成方針で、事務所は、受講生に転職先を紹介することは職業紹介に当たり、有料で行うには厚生労働大臣の許可が(職業安定法30条1項)、無料で行う場合でも原則として許可が必要になる(同法33条1項)ことを示しました。「卒業生に企業を紹介する」という特典は、仕事の「あっせん」として業務提供誘引販売の要件に近づくだけでなく、職業紹介の許可の問題も生むということです。

「収入は保証しない」「紹介できる可能性がある」と書けば外れるか

インスタ運用講座の依頼者に送った追加の確認事項では、企業案件の紹介をどう扱うかを問3として取り上げました。依頼者の講座には、受講者に企業のPR案件を紹介できる仕組みがあったためです。事務所はこの問いの中で、次のように伝えています。「『紹介できる可能性がある』『収入は保証しない』という伝え方でも当たることがあり、『月○万円を目指す』という目標と組み合わさると判断されやすい」。

業務提供誘引販売の要件は、「収入を保証すること」ではなく、「収入を収受し得ることをもって誘引すること」です。保証しないと断っていても、スクールが仕事を紹介する仕組みがあり、その仕事で収入が得られることを勧誘の材料にしていれば、要件の③は満たし得ます。「可能性がある」という控えめな言い方も、受講者が仕事の紹介を受講の理由にしているなら、誘引の効果は変わりません。そこに「月○万円を目指しましょう」という目標が加われば、収入を材料に勧誘していることがより明確になります。

契約書に「本講座は仕事の紹介を約束するものではありません」と書くことは、それ自体は意味がありますが、それだけで外れるわけではありません。判断されるのは、販売ページ・広告・個別相談での説明を含めた勧誘の全体です。セールス代行スキルの高額スクールのレビューでも、事務所は、受講料の支払と将来の収入の機会が関連して説明される可能性から業務提供誘引の問題を指摘しつつ、該当するかどうかは販売ページ・広告・個別相談の説明全体で判断される、と整理しています。案件の紹介制度の条文の作り方は案件紹介制度・初案件保証で扱います。

進め方は二つ:当たらない設計にするか、当たる前提で整えるか

問3では、依頼者に二つの進め方を示しました。

企業案件の紹介の扱い方(インスタ運用講座への提案)

進め方内容必要になること
A(おすすめ)勧誘の場で仕事の紹介をメリットとして伝えない。契約書に「紹介を約束しない」と書く。紹介は講座とは別の任意の機会として行う販売ページ・個別相談の説明から、案件の紹介を受講の特典として示す表現を外す
B業務提供誘引販売取引として整える概要書面と契約書面の交付、20日のクーリング・オフ、広告の表示事項への対応

依頼者はAを選びました。

Aを選ぶ場合、契約書の一文だけでなく、勧誘の言葉と販売ページを合わせて直す必要があります。「受講生には企業案件を紹介しています」という一文が販売ページに残っていれば、契約書でいくら「約束しない」と書いても、受講者はその一文を受講の理由にします。紹介を講座と別の任意の機会として行うとは、受講契約の役務に含めず、受講料の対価としても位置づけず、紹介を受けるかどうかが受講の有無と結びつかない形にすることです。

条文例受講契約書(仕事の紹介を約束しない旨)

  1. 本講座は、受講者に対し、仕事、案件その他の業務を提供し、又はあっせんすることを約束するものではありません。
  2. 当社が受講者に企業等の案件の情報を伝えることがある場合でも、それは本講座の役務の内容に含まれず、受講料の対価ではありません。受講者がその案件に応募するかどうかは任意であり、応募の有無は本講座の受講に影響しません。
  3. 本講座は、受講者が得る収入の額を保証するものではありません。

第2項は、紹介を「講座とは別の任意の機会」として位置づけるための書き方です。この条を置いても、販売ページや個別相談で紹介を受講の特典として伝えていれば、勧誘の全体で判断されることに変わりはありません。

Bを選ぶ場合は、書類一式を業務提供誘引販売取引の型で作り直します。概要書面、契約書面、20日のクーリング・オフの記載、広告の表示事項です。事務所がこれまで扱ってきた副業スクールの案件は、いずれもAの方向、つまり当たらない設計にするか、確認事項の段階で止まっており、当たる前提で法定の書面一式を作った例はまだありません。それだけ、副業スクールにとってBの負担は重いということでもあります。

ヒヤリングの問い|企業案件・仕事の紹介を検討するときに

  1. 受講者に紹介する仕事の報酬は、誰が支払いますか(企業か、スクールか)。

    スクールが報酬を支払うなら、スクール自身が仕事を提供する関係になり、要件の②にそのまま当たります。企業が支払う場合も、スクールのあっせんがあれば同じ問題になります。

  2. 運営者の事業の中で、受講者が報酬を受けて働く仕組み(レベニューシェアのメンバーなど)はありますか。受講者がそのメンバーになることはありますか。

    受講者が運営者の仕事に加わる仕組みは、仕事の提供に当たり得ます。

  3. その仕組みを、勧誘の場(個別相談・セミナー・販売ページ)で伝えていますか。

    伝えていれば、業務提供利益での誘引の要件に近づきます。伝えていなければ、Aの進め方がとりやすくなります。

  4. 受講者は、自宅などで個人として仕事をする人ですか。

    規制の対象は、業務を事業所等によらないで行う個人です。受講者の実態を確かめます。

当たり得る構造を持つスクールで、書類に何を書くか

SNS起業講座とオンライン秘書養成講座を組み合わせたスクールは、起業コースの受講者に秘書コースの受講者の業務サポートを付け、卒業生のコミュニティで法人からの依頼をマッチングする構造でした。秘書コースの受講者は、コミュニティ内のお仕事募集に応募できます。起業コースの受講料には、秘書コースの受講者による4か月の業務サポートの費用が含まれていました。この構造では、秘書コースの受講者から見ると、受講した内容を使う仕事を、運営者のコミュニティが用意していることになります。

こうした構造を持つスクールでは、少なくとも次の点を書類で整理しておく必要があります。秘書コースの勧誘の場で、コミュニティ内の仕事の募集をどう伝えているか。仕事の募集への応募が、受講の特典なのか、受講とは別の任意の機会なのか。業務サポートの報酬を誰が誰に支払うのか。これらの整理なしに受講契約書だけを整えても、業務提供誘引販売取引に当たるかどうかという最初の問いに答えられません。高額の集客講座を「代理店登録(受講)」という名目で受講させ、受講者を事業者として契約させる設計の契約書も、購入者の側からレビューしたことがありますが、名目や契約上の立場の書き方は、在宅で仕事をする個人を守る規制の適用を左右しません。

勧誘の場の言葉は、業務提供誘引販売の要件だけでなく、消費者契約法の取消しにも関わります。「受講すれば月○万円」は、業務提供利益の誘引であると同時に、将来の収入という不確実な事項についての断定的判断の提供にもなり得ます。表示の問題は「稼げる」の表示で、勧誘の記録の残し方は確認書・申込み前確認メッセージで扱います。

起きがちなこと

よくあるご質問

「案件紹介あり」と書いただけで、業務提供誘引販売取引に当たりますか?

当たるかどうかは、スクール(提携先を含む)が受講者に仕事を提供・あっせんし、その仕事による収入を勧誘の材料にしているかで判断されます。案件紹介を受講の特典として示し、その報酬を勧誘の材料にしていれば当たり得ます。紹介を講座と別の任意の機会とし、勧誘の場で伝えない設計にすれば、当たらない方向に整理できます。

提携先の企業が仕事を出す場合も、当たりますか?

特商法51条1項の業務は、販売・提供をする者が「自ら提供を行い、又はあつせんを行うもの」に限られます。提携先が仕事を出し、スクールがそれを受講者に紹介すれば、あっせんとして当たり得ます。

「収入は保証しません」と書けば外れますか?

外れません。要件は収入の保証ではなく、収入を収受し得ることをもって誘引することです。「紹介できる可能性がある」「保証しない」という伝え方でも当たることがあり、「月○万円を目指す」という目標と組み合わさると、そう判断される可能性が高まります。

業務提供誘引販売取引に当たると、受講者は途中でやめられますか?

特定継続的役務提供と違い、法律が定める中途解約権はありません。あるのは、契約書面の受領日から20日以内のクーリング・オフ(特商法58条)と、契約が解除されたときに事業者が求められる損害賠償などの額の上限(同法58条の3)です。

該当したら、何を作り直す必要がありますか?

契約前に渡す概要書面と契約後に渡す契約書面(特商法55条)を用意し、20日間のクーリング・オフを書面に記載し、広告に載せるべき事項(同法53条)もそろえます。勧誘の際の不実告知・事実不告知の禁止(同法52条)にも注意します。

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